第6話

廃工場の裏。

そこには従業員用の通路が有り。

そしてそれを突き抜けると、裏口に出た。

雑草が生えまくって汚い場所に。

だが、その雑草が踏み荒らされている場所が有る。

恐らく、咲が通った場所だと思われる。


「待っていろ.....咲!絶対にお前を改心させてやるんだ!俺は!」


2年前とは違う。

俺はあの時より更に大人になった。

お前も。

17歳だろ。

成長した大人になれよ。

いい加減に!


「ハァハァ.....!」


裏口を抜けて、雑草を踏み固めて。

そして走る。

汚泥が俺のズボンに付いてくる。

が、そんな事を気にしている場合じゃ無い。

そもそもに、彼奴はもう人を道具としか見てない。

それはつまり。

この街の住人が危ない事も意味する。

害が及ぶ前に。

彼奴をひっ捕らえなくてはいけない。


「クソッ!どこ行きやがった!」


汚泥の跡で追跡しようとしたが、雨が酷すぎて。

追跡もクソも無かった。

全て大雨に洗い流されて、追跡が困難だ。

この街は彼奴が住んでいる街では無いと仮定する。

つまり、行き場所が分からない。

だが、何故か。

俺は直ぐに目的地が分かった気がした。


「彼処か!」



「見つけたぞこの野郎.....」


「お兄ちゃん.....流石だね」


彼奴が行き場所を失って。

そして全て失敗して逃げ帰る場所。

俺を好き好き言っている彼奴が行くと思われる場所。

それは。

俺のアパートだ。


「お前な。いい加減に諦めろ。親父の所へ.....って!何やってんだ!」


咲は。

ワンピースを脱いで、パンツを脱いで。

全てを取っ払い、裸になった。

そして、妖艶な感じで。

俺に近づいて来る。


「お兄ちゃんの子供を作るんだー。私」


瞳孔を見開いて。

そして死神の様な雰囲気で。

手に、包丁を握りしめている。

つまり、俺の家の。


「いい加減にしろこのクソ馬鹿。諦めろ。俺はそんなものには惑わされない!」


「お兄ちゃんの為に処●膜を残しているのに?お兄ちゃんは私から逃れられないよ。この場所で.....するんだぁ」


水か分からない液体を滴らせて。

こっちに寄って来る、咲。

このアホめ。


「お前な。考えろ。俺達は兄妹だ。つまり、それは奇形児が生まれる確率も高くなる。出来る訳が無い。それにな。お前は既に追い詰められている。無駄な抵抗は止めろ!」


「言う事を聞いて?お兄ちゃん。さも無いと殺すよ」


出来るならやってみろ。

俺は2年前とは違う。

あの時はお前に恐れを抱き、そして隙が有ったが。

今は違う。

今は、信念を持ってお前に対峙している。

変わってほしいという信念を持って。

俺はこの場に居るんだ!


ヒュオ!


「う.....!」


俺の真横を。

掠めた。

包丁が、である。

勢い良く、咲が刺し掛かってきた。

俺は正拳突きの構えをする。

すると、咲は。

包丁を持ち替えた。

そして一気に下から突き上げる!


ビュオ!!!!!


「.....ッ!?」


「お兄ちゃんだけが変に力つけて居るとでも?私だってそれなりに強くなったんだよ?全てはお兄ちゃんに愛されたいだけ。それだけだからね.....♡」


なんだこの変な動きは。

まるで、本当の技の動きだ。

マズイ。

このままじゃ負ける!


「この野郎!」


俺は容赦無く、アッパーを繰り出す。

しかし、それをしゃがみ躱して。

そして顎の下から漆黒の闇を浮かべ、包丁を突き上げてくる。

それを躱した瞬間に背後に有る、手すりに俺は頭を打つけてしまった。

そのまま、地面に仰向けに倒れる。


「が.....」


「終わりだね。お兄ちゃん。内臓を取り出して飾ってあげるから。安心して」


そして、咲は思いっきりに。

包丁を振り翳して、俺の心臓に突き立てようとした。

その時だ。


「はーい。そこまでー」


ガシッ


「.....!?」


「.....!!!!?」


横から。

誰かがやって来て、妹の手を掴んで止めた。

その人物を俺は確認する。

見れば。


「素っ裸でこんな場所で殺人でも起こしたらこのアパートの存続危機だからねー。止めてねー」


アパートの管理人の女の子で、名を確か。

久留米陽子だった気がする。

このアパートに最初に引っ越して来た時に。

俺に対して無愛想だった、女の子。

その女の子が。

止めた!?


「.....誰?あんた」


「.....私は久留米陽子だよー。高校3年生。このアパートの管理人の娘だよー。で、君は確か.....悠次郎くんの妹さんだよねー?」


その様に。

サラッと話す、陽子。

雨の音が周りを包む中。

俺達は陽子を見つめ続けた。









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