第8話
引っ越しする事になった、咲。
だが、未だに少年院を出たからと言って執行猶予がまだ有るらしく。
少年院を無事に出所した人達が行く自立支援の場所に行っているらしかった。
ここからはそう遠くないみたいだ。
咲がそうしたのか。
それとも。
まぁ、考えても無駄かも知れないが。
「さて。んじゃ、咲。出るか」
「そうだね」
一応、平穏は保っている。
問題も無く、過ごしている感じだ。
だが。
油断は出来ない。
いつ、咲が暴走して。
犯罪行為に走るかも分からない。
だとするなら。
俺は気を配ってないといけない。
凛と春樹の協力はなるだけ頼らない様にして。
「その服、似合ってるぞ」
「本当?えへへ。お兄ちゃんの古着を改造したんだ」
はにかむ、咲。
そうか。
まぁ、それでこいつが満足するなら良いや。
思いつつ、俺達はアパートの扉を開けて外に出る。
そして鍵を掛けた。
☆
大学。
キャンパスは基本的に、広々とした、開放感溢れる場所になっている。
とある建築家がデザインした、特殊な校舎。
中央に巨大なスロープが有る。
そしてバリアフリーに溢れている場所だ。
カフェもある。
「.....?」
しかし、開放感溢れる場所で。
何か不審な点を感じていた。
それは。
「.....」
「あいつか.....」
「.....うわ.....」
何か、俺に対して、視線が冷たい。
冷ややかな視線というか。
気に入らない視線が蔓延している。
一週間前とはえらい違いだ。
なんだこれは。
「おはよ!」
「.....!」
唐突に。
背後から目隠しをされた。
俺は見開いて振り返る。
そこに。
「えへへ。びっくりした?」
「凛.....」
凛が居た。
如何にも女の子らしい服。
あまり詳しくないが、これはスカーフだっけか?
それをモチーフにして、服装が彩られている。
可愛いな。
流石は凛だ。
「.....」
「.....どうしたの?」
そんな凛ですら。
周りから冷たい視線を浴びて居た。
正確には、冷たい視線というか。
そいつに構って可哀想だな。
的な視線。
気に入らない。
なんだ、はっきり言えよ。
「.....チッ.....連中.....何か訳の分からない視線をぶつけやがって」
「.....気にする事ないよ!大丈夫!.....ほら!春樹だって来たよ!」
春樹は複雑そうに。
こちらにやって来ていた。
その手に、紙を持って。
☆
「何だこれ.....」
その紙は。
ビラだ。
だが、ただのビラじゃない。
写真付き。
その写真は。
「.....私が捕らえられた所の.....!」
「誰か居たって事なのか.....」
余りにもはっきりしていた。
警察とのもみ合いの時の写真。
俺と警察の、だ。
これではもしこの大学に配布されたら誤解されてもおかしくはない。
何だってこんな。
くそう。
「.....クソッ」
「そう言えば.....聞いた事が有るよ.....確か.....この大学の裏には自分達が大学内で目立とうとする為に色々な事に手を出そうとする奴らが居るって.....」
それでパトカーが停まって居るのを偶然に見つけて侵入して来たってか。
美味しいネタだろうけど、まさかこの大学にそんな裏が。
気に入らない事をしやがる。
とにかく、これはマズイ。
何を言われるか。
ピンポンパンポーン
「普通科1年、三島悠次郎くん。普通科1年、三島悠次郎くん。至急、教員課に来なさい」
予想通りの結果になった。
このままでは担当教員に何を言い渡されるか。
分かったもんじゃない。
「.....どうする?」
「どうするったって行くしかないでしょう。春樹」
俺はビラを握りしめて話す。
やられた事は仕方が無い。
しかも、これは俺の妹が原因だ。
「.....私も行くよ。.....説明をするから。ゆーちゃんの為にも」
「.....」
赤くなりながら。
凛は俯いた。
俺も赤面する。
そんな様子を春樹は苦笑しながら見つめていた。
☆
「俺は何の為に此処に呼ばれたんでしょうか」
「.....分かるだろう!君!この写真の件についてだ!」
バァンと叩きつけられる、写真付きビラ。
俺はそれを冷や汗をかきながら静かに見つめる。
俺の横に凛と。
春樹も居た。
こんな俺達に対して、担当教員の山口はため息をつく。
「.....ハァ.....君ね。こんな写真があって、君をこの大学に置いておくのはかなり問題がある。分かってるね?」
「.....」
仕方が無いな。
俺はため息をつく。
すると、横を風が横切った。
ガッ
「.....ちょ!?おま!」
春樹が山口を持ち上げていた。
そして睨みつける。
ちょ。春樹!?
「お前.....お前に.....悠次郎の苦労が分かるのか!?」
「な.....長今!落ち着け!」
この春樹の行動に。
周りの教員達が何事かと見て来て。
そして直ぐに春樹を抑え込む。
だが、春樹は叫ぶのを止めなかった。
「.....何も知らないくせによ!」
「止めて!春樹!貴方が大変な事に.....!」
凛が膝を曲げて、春樹を庇う。
これに対して、山口が睨む様に此方を見てきた。
そして吐き捨てる様に話す。
「.....長今!お前は1ヶ月。そして三島!お前は3ヶ月!停学だ!お前ら2人は学校に来るな!」
「.....この.....!」
春樹が怒りに任せてか。
抵抗に抵抗しまくるが、大人4人がかりで押さえつけられては厳しいだろう。
ちょうど良いや。
山口がその様に話したんなら。
俺はー。
その様に、思っていた最中。
バシン!
「はい!?」
「.....!?」
凛が。
涙目で山口を平手打ちした。
って、嘘だろ!?
凛まで!?
俺達は固まる。
「.....き.....君!」
「.....全員分の怒りです。感じて下さい」
山口はまさかの事に目を丸くして居た。
他の全員も、だ。
凛はこの大学でも優秀な生徒の筈だ。
他の大学が勧誘に来る程に。
まさかの行動だろう。
俺は唖然としつつ。
凛を見つめる。
「いこ?ゆーちゃん。春樹」
その様に。
凛は話して、俺の手を握って。
春樹を立たせて。
俺達は職員課を後にした。
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