第9話

結論から言って。

俺達3人全員が山口によって停学になった。

まぁ、もういいや。

面倒臭い。

どうにかしようにも大学自体に反逆が出来る訳じゃ無いし。

停学なら停学で問題ない。

来年、再チャレンジだ。

金を貯めてやる。

それに停学理由は咲のせいだ。

問題は無い。


「ごめんね。お兄ちゃん。私の所為だよね.....」


「全く問題無し。バイトでもして金を貯めるさ。お袋、親父も分かってくれるだろうし」


アパートに帰ってきたしょんぼりしている咲に話す。

とは言え、バイト。

バイトねぇ。

どうしたもんかな。

ここら辺で高額バイトって何が有るのかね。

しかも大学生で。

ちょっと困ったもんだな。


「ガソリンスタンド店員。コンビニ店員。スーパー店員.....ああ。何も思いつかない。.....高額バイトっちゃ何が有るんだ?困ったな」


「.....あいつに聞いたら良いかも。一方的に相手が近寄って来てウザいんだけどね」


まさかの言葉だった。

咲に近づく奴だと?

度胸試しにも程が有る。

それが男なら殺してやるけど。

咲にはまだ男が出来るにはちと早い。

あと、ちょっかいばかりかけて暴走したら。

責任取れるのかその馬鹿野郎は。

糞食らえ。


「呼ぶとしても。何処に居るんだ?そいつは?」


「えーっと、なんかこのアパートの近くに住んでいるよ。いつでも話してね。とか話していた様な?」


なんか。

嫌な予感がする。

このアパートの近くだと?

俺は思わず顔を顰めた。

そんな俺を他所に、話を進める咲。


「でも、そいつ、頭良いから相当に利用価値はあるんだよね」


「.....うーむ?」


嫌な予感しかしない。

しかし、咲に知り合い。

取り敢えず、其奴を呼んでみるか。

だがまぁ、どうやって呼ぶか。

問題はそこだが。

咲は恐らく、うざったく思って居て。

ラ●ンとか全く交換してないだろうしね。

困ったもんだ。



「咲先輩!呼びました?」


「.....」


こいつ、誰だ。

何か咲がスマホで索引していた時だ。

唐突に玄関先に女が現れやがった。

美少女。

目が大きく。

眉毛も細く、長く。

そして童顔のピンクの唇。

身長が低いが、体は所謂、ぼんきゅっぼんだ。

すげぇけど。

マジで誰。

こんな知り合いは知らん。


「あ、こいつこいつ!お兄ちゃん。.....しつこいクソ野郎」


「マジで?ってか、こんな美少女なのかよ!」


俺は驚愕する。

すると、目の前のキラキラしている美少女はにこやかに。

その場で一礼した。


「貴方の事は咲先輩から聞いています。悠次郎さん。私、鈴鹿りん(すずかりん)って言います!宜しくお願いします!」


礼儀正しい奴だ。

しかもりんってあいつと同じか。

その様に俺は微笑ましく思ったが、此奴も少年院を出たばかりの少年少女が通っている施設に通って居るんだよな?

なら、途轍もなく嫌な予感がするんだが。

思いつつも。

俺も頭を下げた。


「よ.....宜しく.....」


「はい!」


そしてそんな、りんを部屋に招き入れようとした時だ。

咲に対して、りんが手招きをした。

そして耳打ちをする。


「あ、ちょっと咲先輩は席を外してくれますか?悠次郎さんにお話が。すいません」


「.....良いけど、お兄ちゃんに手を出したら殺すぞ」


殺す(ぞ)ですか。

明らかに敵意丸出しですね。

貴方。

俺は苦笑する。

そんな咲に、りんはニッコリ笑顔で反応した。


「はい!大丈夫です」


咲は死神の目付きで一瞥で睨み。

そしてアパートの階段を降りながら去って行く。

俺はその様子を見ながら。

りんに向いた。


「.....で、お前。話ってなんだ」


「はい!えっと、お兄さん。.....咲先輩から離れて下さい♡」


鞄に手を突っ込んで。

その様に話した。

あ?


「.....は?」


次の瞬間。

りんは大きな刃が出たカッターを肩からかけていたポーチから取り出し。

思いっきり薙いだ。

嘘だろ!

俺は玄関先で尻餅をつく。


「.....えっとですね、私、昔から感情が無いって言われてるんです。そんな事無いのに。.....そんな私に対して笑顔という事を教えてくれたのが、咲先輩でした。でもここ最近は咲先輩はお兄さんとの生活のお話ばっかり。もーうんざりです。お兄さん。咲先輩は私の大切な人。だから邪魔なのでこの場で死んで下さい」


「アホか!馬鹿野郎!落ち着け!」


咲が戻って来る前の一瞬の隙に始末を。

と言わんばかりにりんはどんどん近づいて来る。

大きなカッターをチキチキ音を鳴らして更に刃を出しながら。

此奴の目は至って普通の目をしている。

怪物か!?

人を刺し殺そうとしているのにか!?

馬鹿なのか!?


「.....あのさ.....お前.....どういう罪で服役した?」


「同級生の殺害、両親の殺害です。死体が腐っていく様子を眺めていただけなのですけどー。何でか刑務所に入れられちゃいました♡」


笑顔でカッターを脇にその様に話す。

駄目だこりゃ。

決まった。

此奴はあれだ。

ヤンデレの進化系かなんかじゃ無いのか。

サイコパスとか。

感情が無いとか話しているしな。

思っていると、りんがカッターを両手で持ち、振りかざして来た。


「.....死ね」


ガズン!


木の床に。

縦筋に穴が開いた。

思いっきりカッターを振り下ろした勢いで刺さった傷。

俺はヒッと悲鳴を小さくあげて、下がる。

しかし、奥には自室しかない!

マズイ。

陽子は高校だし!

これは絶対的にマズイ!

いくら俺でも頭がイかれた野郎に対処法なんぞ知らん!

咲は論外だしな!


「お兄ちゃん!!!!!」


唐突に。

りんの背後から。

咲が消化器で、りんに殴りかかった。

それをりんは横にずれて避ける。

そして、消火器が床にぶち当たった瞬間、消化器が壊れ。

中身が一気にその場に撒かれた。

部屋の中が真っ白に染まっていく。


プシュー!


「.....咲先輩.....?」


「何やってんだテメェ。お兄ちゃんに手を出したら殺すって言ったよね?私」


「ゴホッゴホッ!」


消火器の粉が撒き散らされた空間。

扉が開いているとは言え。

人影しか見えん。

そんな中で、咲は出刃庖丁を構える。

これに対して、りんは首を傾げた。


「貴方にとって、お兄さんは邪魔者でしかない。だったら消すに限ります。邪魔しないで下さい」


「.....テメェ!ぶっ殺す!」


カーテンが閉まっている。

その為、暗闇と消火器の粉でりんの姿は曖昧にしか見えない。

そんな中で。

戦闘が始まった。

って。

駄目だろこれは!

止めないと!咲がまた暴走しちまう!

捕まっちまう!


「このクソアマ!死に腐れ!ボケが!」


咲が思いっきりに出刃庖丁を薙ぐ。

だが、それは影を薙いだ様で。

りんは既に避けて居た。

って言うか。

本気の咲の攻撃を避けるとは。

凄いな此奴。

なんて感心をしている場合じゃねぇ!

止めようにも止められない!


「.....咲先輩はちょっとすいません。少しばかり気絶していて下さい」


りんは思いっきりに拳を咲に命中させた。

それは強烈な一撃だった様で。

血を咲は吹き出した。

口の中を切った様である。

何ちゅう戦闘だよ。

これ。


「.....くそう!くそう!.....絶対に殺す!」


「私は咲先輩との幸せを考えているだけなのに.....」


「八つ裂きにしてやる!」


呟いた、りんの言葉を無視で。

咲は怒り狂う。

ってか、なんちゅう戦いだよ!

こんな狭い場所で良く戦えるな!

立ち上がる隙もない!

尻餅のまま。

俺は戦いをそのまま見つめていた。

これはキリが無い!

クソッ。

どうすればいい?


「咲先輩は何故、私を見てくれないのですか?.....悲しいです.....」


真顔の呟きに。

出刃包丁でりんに襲いかかる、咲。

その際に、叫んだ。


「はなっからテメェなんぞ眼中に無いんだよ!私が興味があるのはお兄ちゃんだけだ!!!!!」


「そうですか.....」


俯く、りん。

此奴にもそんな表情が出来るのか。

思いつつ、俺は眺めていると。

りんはカッターを捨てた。


「.....?!」


それから、ゆっくりと無表情で唇を動かして話した。

ポーチに手を突っ込んで、だ。


「唯一.....ようやっと.....こんな私にも友達が出来ると思ったのに.....。咲先輩がその様な態度で本当に残念です」


それから、りんが取り出したのは。

ずっしりした様な、光沢のある、回転式拳銃。

所謂、警察が使っている様な拳銃。

赤色の弾が見える。

嘘だろ?

偽物だよな?

流石の咲も見た事のある拳銃が出て来て。

動きが止まった。


「警察官のお兄ちゃんから盗んできた拳銃です。これで終わりにします」



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