第10話

「馬鹿なの?あんた。それをやったら周りに気付かれるわよ?」


咲がその様に話す。

確かにその通りだろ。

拳銃の発砲音って無茶苦茶でかいんだぞ。

父さんに聞いた事が有るけど。

此奴、分かっているのか?


「また刑務所に入りたいのか?お前」


「知りませんよ。そんな事。私は咲先輩に振り向いてほしいから行動してます。ただ、それだけです」


まずい。

こういう、意識が向こうに行ってしまった人間ほど恐ろしいものは無い。

それは2年前の咲で十分に理解した。

現在のこの状態は本当にマズイ。

弾は6発の様だが、至近距離では発砲すれば必ず当たるだろう。

どうする。

ラ●ンで誰かに救済を求めるか。

だが、間に合うのか?


「チッ!」


咲が歯を食いしばって動こうとする。

それを俺は肩を掴んで止めた。


「止めろ!咲。錯乱した人間ほど危ない存在は無いから」


「でも!お兄ちゃん!このままじゃ!」


分かってる。

だが、方法が全く思い付かん。

かくなる上はこの馬鹿を今、この場で。

説得するしか無い。

やれるかは分からないが、相手の拳銃。

震えている。

つまり、まだ望みは有る筈だ。


「いいか。りん。お前が俺達を殺したとして。その後はどうすんだ。.....きっとお前の行動を悲しんでいる奴らも居る!俺達を逆恨みで殺しても意味は無い!馬鹿な真似は止めろ!」


「.....私は咲先輩と貴方が幸せになっているのを見るのが嫌なだけです!だから行動して。私に振り向いて欲しい!私にはもう咲先輩しか居ないんです!だけど、失望しました。だから殺します!」


拳銃を両手で構えながら。

腰に踏ん張りを入れて。

引き金を引こうとしている。

こんな場所で殺されるのか、俺は。

冗談じゃ無い!


「もう一度、考え直してくれよ!お前は本当は悲観しているだけだ!周りを見ろよ!お前を見てくれる人が必ずいる筈だ!」


「そんな人は居ません!咲先輩だけが私を見てくれていた!」


そして。

りんは引き金に力を込めた。

俺に銃口を向けて、だ。

くそう!

死にたく無い!


パァン!


「.....は?」


「!?」


発砲音がした。

しかし、痛みは感じなかった。

何故なら。

紙が飛び散ったから。

所謂、パーティ用のクラッカーみたいな。

なん!?


「な.....なにこれ?本物の拳銃だって.....聞いたのに!?」


まさかの事態だった。

これをチャンスと受け止って、咲は動いた。

そんな咲に叫ぶ。


「殺すなよ!そいつには聞きたい事が山程有るからな!」


「分かった。お兄ちゃん!」


そして。

怒りの咲の鉄槌が。

りんの腹にクリーンヒットした。

これの痛みに耐えきれなかったりんは。

その場で気絶した。



家の前に警察が来た。

というか、警察はりんが偽物拳銃を取り出してから居たらしい。

突入の機会を伺っていたそうだ。

りんの兄貴が偽物拳銃が無くなってから手回し、したらしい。

その為、追跡をして。

やって来たそうな。

だけどもうちょい早く来れんのか。

死ぬ寸前だったぞ。


「ご協力、感謝します」


現行犯逮捕されたりんは手錠を嵌められ。

布が被せられた。

りんの兄貴、派出所警察官の輝次さんが俺達に挨拶した。

りんはパトカーにゆっくり乗せられる。

その様子を複雑な顔付きで見る、咲。

その横で咲の頭に手を乗せる俺。

俺はパトカーの扉が閉められる直前に。

りんに話した。


「お前が出所したら俺の友達を紹介してやる。お前は1人じゃ無いよ。りん」


「.....あれだけの恐怖を与えたのにまだそんな事を言えるのですか。貴方」


睨む様に見てくる、りん。

まぁ。確かに怖かった。

だけど。

おかげで此奴が孤独だという事を知れたさ。


「.....お前のした事は反省してほしい。だが、それが終わったらまた来い。お前に友達紹介してやる」


「.....馬鹿ですね。貴方.....」


何だろうな。

確かに馬鹿なのかも知れない。

だけど俺は。

咲みたいな奴は放って置けないタチなんだなろう。

こんな妹を持ったから分かる。

お前も変われるさ。


「じゃあな。りん」


「.....」


扉が閉められたりんの目元に。

涙が見えた気がした。

気の所為かも知れないが。


「それでは」


その様に話し。

パトカーは警察官を乗せ。

走って行った。





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