第22話

俺は結局、何も出来なかった。

いや、出来なかったのでは無い。

正確には、出来る前に。

動けなかったのを覚えている。

あまりの恐怖に、だ。

俺の妹が全てに関与しているのでは無いかと思って、だ。


「お兄ちゃん♡」


「.....」


俺の心配など、恐怖など。

知る由も無い、柔和な笑顔を見せる、咲。


こいつは10歳だぞ。

そして女の子で。

更に言えば、体力が無い筈。

そんな真似が出来る訳が。

だが。

いや、もしかしたら。


などという、恐ろしい考えが頭の中を魚群が餌を探す様に。

回り続けていたのを。

記憶している。

俺は漫画本を置いて、咲の肩を掴む。

そして真剣な、汗を流しながら遂に問うた。


「.....咲。お前、人殺しなんかしてない.....よな?」


「してないよ」


即答だった。

俺はその答えに。

安堵の息は吐けなかったのを覚えている。

何故なら。

この時。

初めて、咲の目が。

俺に危害を加える全ての動物を。


` `邪魔なモノ``


としか見てない事を宣言していた様なもんだったから。

兄妹だから分かる。

いや、分からなくちゃオカシイだろ。


「.....そうか。なら良いんだ.....そう.....良いんだ.....」


結局俺は。

根性無しだった。

だが、この時の感情は言えば。


もっとやってしまえ


と応援もしてしまっていた。

俺は何て最悪な奴だったのだろう。

今はそう思う。

感情が完全に揺らいでいた。

彷徨っていたのだ。

ゴーストの様に。



結論から言って。

咲はどうやって情報を手に入れていたかは知らないが。

俺のいじめっ子達は、ほぼ全てが。

この世から(社会的)に。

或いは(殺害)された。

目を潰された奴も居れば。

高い所から突き落とされ、脊髄が折れて。

手足が動かなくなった奴も居る。

そんな中で俺は。

埃が被ってない録画機器の様な物を廊下に有った、床下倉庫から見つけ。

偶然に真実を知ってしまった。



『.....先生。貴方はペドだって聞きました。.....私の裸を見たく無いですか?おしっこする所を見たく無いですか?』


『.....バカな事を。教師がつられる訳がないだろう!』


何処かに仕掛けているカメラの様である。

素っ裸になっている、和かな咲。

目の前にビーカーを持って来ている。

それに黄色のアンモニア液体が。

チョロチョロ音をたてて。

溜まっていく。

それを、持って。


『先生。飲んで』


『.....』


理性でも崩壊したか。

俺の担任はその液体が入ったビーカーを手に取り。

飲み干す。

そして、周りを確認して。

裸になっていった。

と思った、次の瞬間。

咲が声を上げた。


『.....あ、待って。先生。交換条件でこの場で私とヤっても良いですよ?』


『こ.....交換条件?』


『.....私、化学に興味があるんです。おしっこが化学反応する所、見たいなー。なんて』


裸のまま、ウインクする、咲。

それに対して、早くヤりたいのか。

俺の元担任は禁じられた、薬品の棚を開けた。

そして探す。

よく見ると、下に塩酸と書かれたボトルが。

それを咲は死んだ目で見つめて。

俺の元担任の隙をついて取る。

それから、次の瞬間。


バシャン!!!!!


「.....うえ.....!」


俺は吐き気がした。

強烈な映像だ。

俺の元担任の体に、塩酸を容赦無くかける。

そして声にならない声を教師は上げた。


『思い知れ。私の怒りを』


裸のまま、冷たい真顔で吐き出した。

そしてそのまま、ボトルを倒れて悶えている、教師の性器らへんに。

傾けた。

そして痛みで気絶した様で。

そこで、映像は終わっていた。

俺は吐瀉物を必死に飲み込んで。

そのまま真っ暗になった映像を見た。


「.....なんてこった.....幾ら何でも.....これはもう人間のやる事じゃねぇ.....!」


もう、その一言しか。

出なかった。

こうして、皆、殺されたという事か。

確かにこれなら男は皆。

騙される。


「.....咲.....」


何の為に映像を残しているのだ。

俺は考えたが、結論は出ない。

その時だった。

心臓が止まる様な冷たい声が。


「.....お兄ちゃん。何しているの.....?」


「.....そんな.....バカな.....お前!何で居る!!!!!」


まだ時刻は学校が終わったとは思えない、10時だ。

なぜ居るのかと必死に咲に問う。

話を逸らそうと思って。

だが、咲は。

俺の予想とは裏腹に。

とてもニコニコしていた。


「.....早退したんだよ。体の調子が悪くて。あ、それ、お兄ちゃんにプレゼントしようと思ったんだよ」


「何がプレゼントだ、この野郎.....」


俺はにっこりして居る咲に。

気分の悪さを抑えながら。

怒り交じりに話す。


「喜んでよー。お兄ちゃん。みーんな私が社会的に殺してやったんだから」


愕然とした。

俺は咲の笑顔を見つめて。

そして冷や汗をかく。


この日。

完全に咲の心は。

こういう事をするうちに。

俺を溺愛する、ヤンデレになっているのだと。

悟った。





















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