第22話
俺は結局、何も出来なかった。
いや、出来なかったのでは無い。
正確には、出来る前に。
動けなかったのを覚えている。
あまりの恐怖に、だ。
俺の妹が全てに関与しているのでは無いかと思って、だ。
「お兄ちゃん♡」
「.....」
俺の心配など、恐怖など。
知る由も無い、柔和な笑顔を見せる、咲。
こいつは10歳だぞ。
そして女の子で。
更に言えば、体力が無い筈。
そんな真似が出来る訳が。
だが。
いや、もしかしたら。
などという、恐ろしい考えが頭の中を魚群が餌を探す様に。
回り続けていたのを。
記憶している。
俺は漫画本を置いて、咲の肩を掴む。
そして真剣な、汗を流しながら遂に問うた。
「.....咲。お前、人殺しなんかしてない.....よな?」
「してないよ」
即答だった。
俺はその答えに。
安堵の息は吐けなかったのを覚えている。
何故なら。
この時。
初めて、咲の目が。
俺に危害を加える全ての動物を。
` `邪魔なモノ``
としか見てない事を宣言していた様なもんだったから。
兄妹だから分かる。
いや、分からなくちゃオカシイだろ。
「.....そうか。なら良いんだ.....そう.....良いんだ.....」
結局俺は。
根性無しだった。
だが、この時の感情は言えば。
もっとやってしまえ
と応援もしてしまっていた。
俺は何て最悪な奴だったのだろう。
今はそう思う。
感情が完全に揺らいでいた。
彷徨っていたのだ。
ゴーストの様に。
☆
結論から言って。
咲はどうやって情報を手に入れていたかは知らないが。
俺のいじめっ子達は、ほぼ全てが。
この世から(社会的)に。
或いは(殺害)された。
目を潰された奴も居れば。
高い所から突き落とされ、脊髄が折れて。
手足が動かなくなった奴も居る。
そんな中で俺は。
埃が被ってない録画機器の様な物を廊下に有った、床下倉庫から見つけ。
偶然に真実を知ってしまった。
☆
『.....先生。貴方はペドだって聞きました。.....私の裸を見たく無いですか?おしっこする所を見たく無いですか?』
『.....バカな事を。教師がつられる訳がないだろう!』
何処かに仕掛けているカメラの様である。
素っ裸になっている、和かな咲。
目の前にビーカーを持って来ている。
それに黄色のアンモニア液体が。
チョロチョロ音をたてて。
溜まっていく。
それを、持って。
『先生。飲んで』
『.....』
理性でも崩壊したか。
俺の担任はその液体が入ったビーカーを手に取り。
飲み干す。
そして、周りを確認して。
裸になっていった。
と思った、次の瞬間。
咲が声を上げた。
『.....あ、待って。先生。交換条件でこの場で私とヤっても良いですよ?』
『こ.....交換条件?』
『.....私、化学に興味があるんです。おしっこが化学反応する所、見たいなー。なんて』
裸のまま、ウインクする、咲。
それに対して、早くヤりたいのか。
俺の元担任は禁じられた、薬品の棚を開けた。
そして探す。
よく見ると、下に塩酸と書かれたボトルが。
それを咲は死んだ目で見つめて。
俺の元担任の隙をついて取る。
それから、次の瞬間。
バシャン!!!!!
「.....うえ.....!」
俺は吐き気がした。
強烈な映像だ。
俺の元担任の体に、塩酸を容赦無くかける。
そして声にならない声を教師は上げた。
『思い知れ。私の怒りを』
裸のまま、冷たい真顔で吐き出した。
そしてそのまま、ボトルを倒れて悶えている、教師の性器らへんに。
傾けた。
そして痛みで気絶した様で。
そこで、映像は終わっていた。
俺は吐瀉物を必死に飲み込んで。
そのまま真っ暗になった映像を見た。
「.....なんてこった.....幾ら何でも.....これはもう人間のやる事じゃねぇ.....!」
もう、その一言しか。
出なかった。
こうして、皆、殺されたという事か。
確かにこれなら男は皆。
騙される。
「.....咲.....」
何の為に映像を残しているのだ。
俺は考えたが、結論は出ない。
その時だった。
心臓が止まる様な冷たい声が。
「.....お兄ちゃん。何しているの.....?」
「.....そんな.....バカな.....お前!何で居る!!!!!」
まだ時刻は学校が終わったとは思えない、10時だ。
なぜ居るのかと必死に咲に問う。
話を逸らそうと思って。
だが、咲は。
俺の予想とは裏腹に。
とてもニコニコしていた。
「.....早退したんだよ。体の調子が悪くて。あ、それ、お兄ちゃんにプレゼントしようと思ったんだよ」
「何がプレゼントだ、この野郎.....」
俺はにっこりして居る咲に。
気分の悪さを抑えながら。
怒り交じりに話す。
「喜んでよー。お兄ちゃん。みーんな私が社会的に殺してやったんだから」
愕然とした。
俺は咲の笑顔を見つめて。
そして冷や汗をかく。
この日。
完全に咲の心は。
こういう事をするうちに。
俺を溺愛する、ヤンデレになっているのだと。
悟った。
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