第16話
「.....災難だったな」
「.....そんな事ぁ無いよ。.....でも親父が来てくれて助かった。マジで死にそうだったから.....」
救急車、消防車、機動隊、警察。
この日本に居る国家権力の全てが集結と言った所だろうな。
俺は救急車の後ろの部分に腰掛けて、タオルで顔を拭く。
それから、久しぶりの外の空気を味わっていた。
「.....」
タオルを膝に置いて、俺は俯く。
特に重傷の身では無かった。
しかし、俺以外の連中。
咲は病院に緊急搬送され。
陽子も緊急搬送。
そして春樹は一応、念の為に病院に送られ、警察署送りになり。
下村は出血多量、圧迫で即死していた。
「.....気にするな。今回は正当防衛だ。悪いのは春樹くんや下村さんだからな」
父さんはその様に話して、後ろに歩いて行った。
俺は俯いたまま、春樹や下村の事を考える。
下村はともかくとして。
春樹の事だ。
何故、俺は春樹の異変に気付かなかったのか。
こうなる前に何か出来た筈だと思う。
そうすれば。
止めれた筈だ。
悔やまれる。
「.....ハァ.....」
有る意味、この世界は皮肉なもんだ。
幸せな奴が居て。
幸せで無い奴が居る。
春樹の事で。
俺は自らが幸せ、という事を。
思い知る事が出来た。
咲が居るという幸せを。
感じる事が出来た。
俺はタオルを横に置いて。
そして背後に寝っ転がった。
「.....」
「もしかして.....悠次郎くん?」
「.....?」
唐突に目の前から。
アニメの声優の様な、甘ったるい声がした。
俺は目の前を見つめる。
其処には茶髪にふわふわしている髪。
そして優しげな顔付きに。
微笑んで居る、女の子が居た。
誰だコイツ。
「.....?」
「あの.....私、西町春(にしまちはる)だよ。中学校ぶりだね」
西町?
恥ずかしそうにもじもじしながら俺を見つめてくる、女の子。
あ。
「お前.....なんでこんな所に居る?」
「.....私、このホームセンターでバイトして居るの。それで関係者として呼ばれたんだよ」
このホームセンターで働いて居る?
まさか。
下村と同じな訳は無いよな?
俺はとっさに身構えてしまった。
すると、西町は大慌てで否定する。
「か.....勘違いしないでね.....下村さんと同じ様な人じゃ無いから.....!」
「.....そ.....そうか.....」
ホッと胸を撫で下ろし。
そして膝に腕を置く。
すると、西町が申し訳なさそうな顔付きをした。
「ごめんね。異変に気が付いていれば良かったんだよね。私.....下村さんの」
「.....気にする事は無いよ。俺だって悪いから.....」
この言葉に。
西町は見開いた。
そして顔を紅くして。
ポショリと呟く。
「やっぱり昔から変わらないね.....悠次郎くん」
「.....え?」
見開きながら反応する。
すると、西町はブンブンと手を振りながら。
そして笑顔で反応した。
「ううん!なんでもないよ!ごめんね!」
「.....そうか?」
その様子に、俺は静かに反応して。
それから俺はその場から立ち上がった。
西町はフラついていた心配そうに俺を支えてくれる。
「大丈夫?」
「.....ああ」
その時だった。
「まゆみを殺したのは誰やねんコラァ!!!!!」
「君!落ち着きなさい!」
「サツがなんぼのもんじゃ!!!!!クソが!ぶっ殺してやる!!!!!」
中年ぐらいの人間の怒号が聞こえた。
西町が怯えて、俺の後ろに隠れる。
俺も身構えた。
目の前には、如何にも不良を超えた不良の、中年のおっさんが警察に取り押さえられながら黄色いテープの前で暴れていた。
周りには黒ずくめのサングラスをかけた奴らが数名居る。
俺は眉根を寄せた。
「オイ!応援を頼め!!!!!」
「はい!」
下村が荒れる訳だ。
俺はため息をつきながら、思って居ると。
人混みの中から、父さんが。
そしてその中年のおっさんの胸ぐらを掴んで、睨んだ。
「いい加減にしろ。こっちは忙しいんだ。達也」
「あぁん?ってかよぉ。大五郎よぉ!!!!!テメェのガキがまゆみを殺したってて情報が有るんだぞコラァ!!!!!引き渡せ!ぶっ殺してやるからよぉ!」
知り合いかよ。
思いつつ俺は眉根を寄せたまま愕然とする。
ってかマズイな。
そんな情報を摑んでやがるなんて。
思って居ると。
「.....せっかくシャバに出れたのに、豚箱に戻るか?達也。落ち着け」
「テメェのガキを殺すまでは落ち着かねぇよ!!!!!クソが!!!!!」
そして。
達也という男は日本刀の様な物まで取り出した。
そして構える。
野次馬が散りじりに悲鳴を挙げて逃げ惑い始めた。
その様子を目を細めて睨み尽くす、父さん。
「殺す!絶対に!」
「数と勢力でぶつかる気か。だがな。.....警察を舐めるな」
そして。
達也という男は父さんの指示で機動隊員と警察に直ぐに押さえ込まれる。
俺はその光景をスゲェと思いながら見つめていた。
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