第15話

木で出来た棚が切断され。

思いっきりに崩落し。

白煙が上がる中、俺は口元を拭いてから、その場から立ち上がった。

右の唇の端が結構深く切れた様だ。

かなり出血している。

だが、今はそんな事を気にしている場合じゃ無さそうだ。

何故なら、目の前を見れば直ぐ分かる。

睨みがあった。

チェーンソーがあった。

俺の首元に。


「.....チェック.....メイトだ」


「.....」


なんてこった、だ。

この馬鹿、運動バカだから相当に速いんだ。

クソッタレめ。

しかし、チェックメイトだと。


本当に俺はここで終わりなのか?


冗談だろ。

咲も、陽子もこの戦場から解放してないのに。

このまま死ぬ訳にはいかないだろう!

くそう!


「.....!」


「デァアアアアア!!!!!」


「!」


ガァン!!!!!


それはかなり唐突だった。

尻餅をついている俺の目の前から。

鉄パイプを振りかざした、髪の間から出血している咲が。

どっから持って来たのか知らないが、その手に有る鉄パイプを勢い良く春樹に振り下ろした。

だが、ギリギリで春樹は察したのか。

春樹は横に避けた。

思いっきりに掠めた様だが。


「.....このクソアマ!」


チェーンソーを俺の首筋から離し。

春樹は左耳の辺りから血を吹き出しながら。

怒りに身を任せ、チェーンソーを真後ろに思いっきり薙いだ。

だが、鉄パイプを持った右手に変わっての咲の左手の方が素早かった。

春樹に左手を伸ばして襲いかかり。

そして春樹の髪の毛を悪魔の如しのにやけ顔で掴む。

目が死んでいる。

その目に春樹は驚愕した。


「お前はあまりにも危険すぎる。今、この場で排除する」


髪の毛を毟り取る様な形で。


排除する。


と呟いた。

その言葉に俺はゾッとして。

真面目に止めようとした。

何故なら、春樹を殺すと思ったから。

だが。それよりも早く。


ダァン!!!!!


軽い、あまりにも軽い音。

釘打ち機が作動した様だった。

よく見ると、咲の脇腹に長い釘が思いっきりに刺さっている。

血が滲みていく。

そして咲は口から血を吐き出した。

って。

冗談だろ!!!!!


「.....咲ィ!!!!!」


俺は立ち上がる。

だが、それを。

春樹が遮り。

咲を口角を上げて睨み。

そして右手と左手で握り拳を作って、思いっきりにアッパーを次々に繰り出した。

その殆どは釘の刺さっている傷の有る咲の脇腹に命中。

咲は激痛だったのか、悶え、床に倒れた。

この。

いや、汚ねぇ!!!!!


「テメェ!春樹!.....このクソ野郎!!!!!」


気が付くと。

俺は我を忘れて、春樹に襲いかかっていた。

だが、素早く躱し。

膝蹴りを飛ばしてきた。

だが、俺はそれを予測して居た!

甘い!


「これでも喰らえ!クソ野郎!」


俺はそれをギリギリで横に倒れる様に避けて。

手に持っていた、尖った木材を春樹に横から振りかざした。

だが。

下村が何かを投げてきて、状況が一変する。

横に倒れこむ様な形だったので、俺は直にそれを受けた。

いや、ちょ。

何か、ガソリン臭い。

まさか。


「.....灯油か.....!?」


「.....そう。灯油や。これであんたを燃やしたるで!」


体にかかっただけでは燃える事は恐らくは無い。

だが、運が悪い事に。

俺の周りには木材、ペンキなど燃えやすい物が転がっている。

これは下村の計画だろう。

恐らく、直に当たらなくても燃えると。

って言うか。

かなりマズくね?

これ。


「いや、下村.....落ち着けよ!」


「馬鹿なんか!あんた!殺すって決めた以上は殺す!そう.....私の.....大切な彼の邪魔になるモノは.....排除するんや!」


酷悪な笑みを浮かべ。

エプロンのポケットから取り出した、ライターに火を点けて話した、下村。

俺は冷や汗をかいた。

今直ぐにでも咲の状態は救急車を呼ばないといけない状態だ。

脇腹を刺激しすぎだ。

咲の血が全く止まらない。

息を激しくさせて、咲は汗をかきまくっている。

くそ。


「.....」


陽子。

くそう。

この状態ではお前に頼るしかない。

マジでヤバい。

何が起こっているんだ。

陽子に!


「.....くそう.....」


せめて咲だけは。

助けてほしい。

咲は仮にも俺の妹なのだから。

俺の付き合いで妹を守りきれませんでした。

じゃ、意味無いんだ!

思いつつ。

俺は強く目を閉じる。

あまり祈った事の無い、神とやらに。


「死ね.....」


ドガーン!!!!!ガシャーン!!!!!


猛烈な爆音が聞こえた。

目の前に居た下村が。

その場から消えた。

と言うか。

正確には消えたのでは無い。

猛烈な爆音と共に。

後ろにあった筈の棚に、押しつぶされた様だ。

床に血液が広がる。

これを俺達は眉根を寄せて絶句して見て居たが、唐突に。

春樹が叫んだ。


「まゆー!!!!!」


声にならない声を上げながら。

下村が居た場所に春樹は駆け寄る。

背後に有る、商品棚。

倒れない様に相当に、固く、頑丈に固定されている筈だが。

それで下村も安心して居た筈だ。

商品棚の後ろを俺は口を開いたまま唖然として見る。

そこに、煙が上がる中。

商品を運ぶ為の。

つまり、どっから持ってきたのか分からないが、クレーン車が棚にひしゃげて突っ込んでいた。

そのクレーン車には陽子が乗って居て。

汚れた姿と、血が滲んでいる、脇腹を押さえながら。

頭は衝突のせいか。

出血しながら。

降りて来た。


「.....悠次郎くんー。これを殺人なんて言わないでねー。貴方達を助けるにはこれしか無いと思ったからー」


「.....いや.....助かった。有難う。成る程.....それで遅かったのか。お前」


ボロボロの姿で此方に歩み寄って来る、陽子。

咲を見つつ苦笑いを浮かべる。

俺は血液の広がっている、光景と春樹を見つつ眉根を寄せる。

その、次の瞬間だった。

ノロノロと力無く春樹が立ち上がり。

そして。


「クソッタレがァ!!!!!絶対に.....絶対に.....ぶっ殺してやる!!!!!テメェら!!!!!」


下村の血液で全身、血塗れになった春樹が。

号泣しながら咆哮をその場で上げた。

そして俺達を睨み。

埃まみれになった、チェーンソーを握って。

そしてこちら側に突っ走って来た.....と思った次の瞬間。

背後から伸びた手がその行動を止めた。

鋭く見下ろす目。

春樹なんかよりも身長が高い其奴は。

警官の服をピシッと身に纏った俺の親父&機動隊だった。







































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