第13話

特には問題は無い状態だ。

金庫でも有るだろうと思われる、セキュリティのしっかりした様な通路。

だが案外、簡単に通れた。

電光が点いたり消えたりしている様な、いつもなら従業員がわんさか居るものと思われる廊下を歩いて。

そして、俺達は突き当たりに有った、鉄の扉の従業員室に忍び込む。

和室めいた作りが半分なされていて。

半分はロッカーが無数に有る、机も有る様な、狭い休憩所。

そして机の上には。


「.....ハズレってー.....」


ハズレと書かれた紙が置かれてあった。

俺達を小馬鹿にしているのか。

ハズレ、という紙に俺はブチ切れそうになった。

ふざけてやがる。

クソッタレ!


「.....じゃあ.....下村は何処に居るんだ!」


拳を力強く握りしめて。

俺はグシャッとハズレと書かれた紙を潰して床に叩きつけた。

今直ぐにでも助け出した方が良いってのに。

ここが撮影場所に似ているのに。

今、下村は恐怖に怯えているに違いない。

今直ぐに助けないといけない。


「.....こっち!こっち!悠次郎くん!床にペンキで何か書かれてるー」


「.....しかも赤のペンキとか舐め腐ってるのかクソッタレが」


赤のペンキの様なもので。

矢印が書かれている。

それは従業員室の奥の方。

着替えが済んだ従業員が仕事に出て行く為の、売り場方面を指し示してあった。

そっちに犯人は居るってか。


「でも.....罠かも.....」


「.....そうかもねー.....」


咲と、陽子は真剣な顔付きで。

言葉を発した。

だが。

もう此処まで来たら引き返す事は出来んだろ。

此処まで侵入して、何も有りませんでした。

じゃ、意味が無い!


「.....行くか.....お前ら、其処に居ろ。警察が来たら即座に案内してくれ」


「.....馬鹿を言うねー。君。私がこのホームセンターに関して詳しいんだよー?此処まで来たら」


バキボキと指を鳴らす、陽子。

そして鉄パイプを見つけ、身に付ける、咲。

あ、いぇ!?


「.....お前ら.....!?」


恐怖に怯える、俺を他所に。

咲と陽子は対神の様に。

目の前を見据える。


「このまま馬鹿にされたままだと流石に私も切れそうだから。行くよ?」


「そうだねー。分かってるじゃん。咲ちゃん」


目が据わってます。

俺は驚愕していたが。

直ぐにため息をついた。

まぁ、そうか。

此奴らに関して。

止まる訳無いもんな、と。


「.....後悔すんなよ」


「.....後悔も何も。ムカつくだけ」


「.....うんー」


装備をしている咲を見て。

俺も一応、この部屋に有った道具箱からハンマーを右手に装備した。

そして冷や汗をかきながら。

舌なめずりをして、俺は売り場の扉を開け放つ。

其処は。


「.....真っ暗だ.....」


シャッターが閉まって居る関係か。

闇夜の如しだった。

真っ暗な中、俺達は警戒しながら、進む。

すると。


ガシャーン!!!!!ガシャン!ガシャシャン!!!!!


「.....はい?」


背後から物凄い大きな音がして。

俺達は後ろを振り返る。

だが、其処には既に従業員用の唯一の灯と言えた入り口は無かった。

巨大な俺達3人でも持ち上げれない様な木材でその入り口が塞がっていたからだ。

何だこれは。

いや、嘘だろ、オイ。

まさか。

時間稼ぎのつもりか!?


「.....だけどお兄ちゃん.....これを1人で?無理でしょ.....」


「.....明らかにこんな作業をこんな短時間で.....1人じゃ絶対に無理だと思うぞ。何だこれは.....何が起こっている!」


俺達の愕然とした考えの。

その答えは。

直ぐに出て来た。

何故なら、次の瞬間。

天井に有る、ライトが点いた。

そして目の前に。


「悠次郎くん.....!あそこ.....」


「.....お前.....」


小型チェーンソーを構えた、春樹。

何故だ。

なんでお前が居る。

春樹。


「あーあ。崩れちゃったねー。はる」


電動ドリルか、それを構えた、下村。

何で、

何で。

平然とその野郎の横に立って居る。

捕まったんじゃ無いのか。

お前は。

下村ァ!!!!!



「まぁ、こういう事だ。すまんな。悠次郎」


「.....済まんな。じゃ.....無いだろ.....何で.....何でだ.....こんな事が.....」


じゃあ何か?

俺達は嵌められた。

そういう事か?

下村と春樹に?

冗談だろ。

何をしているんだ。お前ら。


「悠次郎くん!ぼんやりしてないで!」


「.....」


膝が自然と折れた。

裏切られた余りのショックで。

俺はその場から動けず。

それどころか、2人は余裕な感じで艶かしいキスをしている。

陽子が赤面する程に。


「.....何やってんだよ.....お前ら.....!」


やっと出た言葉がそれだった。

余りにも虚しい言葉だ。

その言葉に。

目の前の2人は長いキスを止めて、答える。


「何やってんの?って?はる。.....私ら見たら分かるよねぇ?」


「そうだな。お前を俺は嵌めたんだ。何せ.....この場でお前を.....」


小型チェーンソーは血を啜りたいという感じで。

音を奏で、動いている。

その小型チェーンソーに目線を向けてから。

力ない様な顔を俺は上げた。

春樹は笑いながら。

言った。


「.....殺す為に、だ」


















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