第20話

翌日の事。

俺は何時もの様な元気な振る舞いで、運動会の為、家を出ようとした前に。

部屋で休んでいる、カーテンが閉まり暗闇の中、点滴をしていた咲に声をかけた。

起き上がった咲は珍しく。

俺を細目で見つめていたのだ。

矢が突き刺さるぐらいの冷徹な眼だったのを。

今でも覚えている。

僅かながらに陽が差し込んでいたが、それでも暗闇な空間。

俺は冷や汗をかいて、静かに名を呼ぶ。


「.....咲?」


「.....お兄ちゃん。私に重要な隠し事してない?」


この時、メデゥーサの様な化け物が。

俺を見た様な感覚を覚えている。

固まって動けなかった。

石像になった様に。

表現が下手くそだが、そんな感じだ。

俺はそれでも和かな笑顔で、冷や汗を流して。

反応を見せる。


「何を言ってんだ?咲。そんな事有るわけ無いじゃ無いか」


「.....」


だが、咲は。

これまで見た事の無い様な。

眉根を寄せての。

強烈に複雑な表情を浮かべていた。

そして、口を動かす。


「.....私はこの前、夜中におトイレで起きて、お父さんとお母さんがこっそりとリビングで話しているので知ったんだけど.....。今日、運動会だって?.....でもね、お父さんとお母さんが学校に相談に行くらしいよ。お兄ちゃんの様子がおかしいのに、もう気が付いて居るんだよ。お父さんとお母さん」


「.....!!!!!」


俺はこの時は。

愕然とした、汗をかいた顔付きになった。

咲は女の子だが、どっかの組織の男の如く。

心底怒っていた様だった。

俺は俯いた。

限界か、と悟った為に。

そして俯いて目を閉じたまま話す。


「.....咲。怒らないでくれ」


「.....いいや!!!!!怒るよそりゃ!!!!!」


その怒号は。

これまでで聞いた事が無い様な怒号だったのを今でも身に染みて覚えている。

余りにも驚いたから。

こんな大声が出せるのか、こいつ。

と思うぐらいに。

父さんと母さんに昔から怒られていたが、この時ばかりは。

別の恐怖を感じた。


「私はお兄ちゃんが大好きなのに.....!!!!!信頼していたのに!!!!!嘘だったんだ!!!!!今までの笑顔は全部!!!!!なんで私に相談しなかったの!?私の事が嫌いなんだ!!!!!ふーん!!!!!そうなんだ!!!!!」


「.....」


口を開けて。

ぽかんとしたまま。

俺は瞬きした。


そんな事がある訳無い。

お前は俺の話を楽しみにしていただろう。


などと。

言える筈も無かった。

何故なら。

咲は怒号を上げながらも。

号泣していたからだ。

そんなに俺の事が兄として好きだったのか。

コイツ、と思ったぐらいに。

俺は唇を噛んだと思う。

そんな中、咲の部屋の扉が開いた。


「.....どうしたの?あんた達」


この時、俺は初めて咲の怒った顔を見る事になる。

何故なら。

母親の三島御幸が咲の部屋に入って来て電気を点けたから。

これに対して。

咲は母親を冷徹な鬼の形相の眼差しで睨んだ。

母さんも動きを止める。


「.....お母さんもなんで私に教えてくれなかったの。知っていたなら学校を休ませれば良かったじゃ無い!お兄ちゃんを!!!!!なんで!!!!!」


「.....ちょ.....知っていたの?貴方.....」


母さんは。

見開く。

言葉に、咲は眉根を寄せて叫んだ。


「この前ね!!!!!」


そうやって。

叫ぶだけ叫び。

ゼエゼエ言いながら点滴を引き千切ろうとする、咲が。

何をする気だと俺は止めようとしたのを今でも覚えている。


「.....許せない.....お兄ちゃんの楽しい、一生に一度の学校生活を壊すなんて.....」


「.....咲.....」


この時はまだ良かった。

何故なら、これで咲の行動を止められたから。

だが咲は。

まだ俺達の説得でも諦めて居なかった様で。

行動を開始して居た。

その悪魔の様な行動を。




















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