第3話

東京にある大学に入学し、晴れて大学1年になった俺は実家を離れ。

アパートで一人暮らしを始めた。

その際に、大学の先輩方が取り仕切る歓迎会の飲み会で俺は1人の女の子と出会った。

18歳になった俺と同じ年齢のその女の子の名前は鈴島凛と言うのだが、俺は一目惚れ。

凛も俺に一目惚れだったと言う。

そして、俺達は付き合い始め、やがて運動部のサークルにも入って。

色々な人達と出会って。

俺は充実な日常を過ごしていた。

そんな矢先の事だ。


「.....ゆーちゃん.....助けて.....連れ去られた.....」


デートから帰り、暫くして。

帰宅した筈の凛が振り絞る様な声で。

俺の携帯に電話を掛けてきた。

まさかの言葉に驚愕した俺は荒れている空を見て。

それから上着を羽織って。

色々な所に電話を掛けながらアパートを一心不乱に飛び出した。

何が起こっているのか。

背筋が凍り付く。

ゾッとした。


「ちょっと待て。凛!何処だ!?何処に居る!?」


「.....分からない.....何か.....工場みたいな.....場所に居るの.....!」


デートからの帰りから。

工場って何だ。

意味が分からない。

思っていると、頭の中に妹の顔が過ぎった。

まさか。

いや、まさかだろ。

彼奴が出てくる訳が。

無いよな?


「.....ハァハァ!!!!!」


ひたすらダッシュで。

俺はそこらへんの建物を見つめてから視線を外して。

そしてまた別の建物を見る。

工場。

別れてからそこまで時間は経過はしていない。

つまり、凛は近くに間違い無く居る。

そんな凛を引き連れて容易に建物に侵入出来て、それでいて、誰も居ないと思われる工場と言えば。

この街の外れの河川敷の小さな工場しか無い!!!!!


「.....待ってろ!凛!!!!!」


無事を願いつつ。

走っていると、悪天候だった為に雨が降り出してきた。

そんな雨を直に受けながら俺は水を弾きながら走る。

すると。


「おーい!悠次郎!!!!!」


真横の道。

そこから傘を差した、同級生の長今春樹がやって来た。

眼鏡に、黒髪の短髪、そして運動部系の顔に、頬のわずかな傷。

一応、俺がアパートを飛び出る前に救済を求めた大学で出来た友人だ。

その友人は必死そうに俺を見つめてきた。

傘を差しているのに、濡れているのは。

必死に走って来たのだろう。


「悠次郎!凛が連れ去られたってマジか?」


「ああ!俺の父親にも一応、救済は求めた!取り敢えず、俺達で少しでも何とかなればと思ったんだ!協力してくれるか?!」


俺の速い息遣いに。

傘を差し出してくる、友人。

その友人は笑みを浮かべて居た。

それから、話す。


「勿論だ!テメェの友人だしな!俺ぁ!」


「.....有難うな.....!」


俺も笑みを浮かべてから。

春樹にお礼を言って。

俺達は全速力で走り出した。

川沿いの工場に、だ。



大きな門。

巨大な柵。

俺はそれを捻じ曲げて、進む。

敷地内にうざったいぐらいに生えた草木をかき分けた先に。

あった。

小さな廃工場が、だ。

食肉工場だったと聞いた事がある。

昔は確かに活気が有ったのかも知れない。

だが、今となっては錆びた外見からは恐怖しか感じない。


「此処なのか.....?」


「ああ.....凛の電話の奥から川の音がしたし、連れ去られてから時間はさほど経過してない。此処で多分、間違いは無い.....」


そして俺達は雨に濡れた手で左右に力任せに錆びた工場の正面ドアをこじ開ける。

ってか、雷まで鳴り始めやがった。

クソッ。

気味が悪いな。


「凛!!!!!何処だ!!!!!りーん!!!!!」


叫ぶ。

だが、反応は無い。

目の前は真っ暗で、何も見えない。

悪天候のせいもあり、光はごく僅かだ。

天井、上の方から光が有るのに。

全く分からん。

暗すぎだ。


「携帯で照らすか!?」


「そうだな!」


春樹の提案で。

俺達は持ち合わせていたスマホで辺りを照らした。

そして、左右を見ながら歩いて行き、食肉加工機の様な物が見えた、その時。

何か虫の動いた様な音がした。

俺は真正面を見る。

そこに。


「凛!!!!!」


ミニスカートで、Tシャツ。

そして髪も体も何もかもが水の様なものでぐっしょりに濡れた、凛が居た。

ベルトコンベアーに崩れた様に乗っかって、左の機械から伸びた鎖で両腕を持ち上げらて、縛られている。

俺の呼びかけに、直ぐに凛は反応した。

弱々しい声で、俺に涙を浮かべた表情を見せる。


「.....ゆーちゃん.....ごめんなさい.....貴方を呼ばない.....方が.....良かった.....!」


「.....え?」


次の瞬間だった。

ベルトコンベアーがゆっくりと。

その錆を振い落しながら動き出した。

ちょっと待て。

これは!?


「.....おい!春樹!何すんだ!」


「いや.....俺じゃねぇぞ.....!?」


俺は言葉に。

真正面を見た。

じゃあ何だこれは!?

クソッタレ!

このままだと凛の体が引っ張られる!


ガガガ


右端から。

けたたましい機械の稼働音が聞こえる。

俺は周りを見るのも嫌だったが、横を見る。

見てしまった。

そこには、大量の錆びた回転刃がこちらに威嚇する様に回っている。

食肉を加工していたものと思われるが、刃が剥き出しの状態という事は。

壊れて、刃だけが剥き出しになって回っているのだろう。


「いやあああああああああああああああああああ!!!!!」


凛が。

その様に涙を、声を。

吹き出しながら叫んだ。

ベルトコンベアーはその刃に向かってエスカレーターの手すりの様に進んでいる。

凛は鎖で縛られている。

だが、その鎖は徐々に伸びていた。

いやいや。

何だよこれ。

マジで何これ?

俺は青ざめて、目の前の悪魔の如く回る刃を見つめていた。

すると、横を誰かが過ぎる。


「馬鹿かテメェ!何やってんだ!!!!!今直ぐに鎖を外せや!!!!!悠次郎!!!!!凛を殺す気か!?」


「.....は!」


気を取り戻した俺は。

鎖を必死に外そうとした。

だが、思った以上に相当に固い。

まるでビクともしない!


「無駄だよ。お兄ちゃん」


「.....!!!!?」


「え」


俺は。

その声に。

見開いてしまった。

まさかだ。

そんな馬鹿な事があるものか。

2年前、両親をヒ素でぶっ殺そうとした変声期を迎えてない様な、殺伐とした様な甘い声。


「お前!誰だ!」


春樹が必死に凛を助けようとしている中で。

俺は暗闇から現れた、その影に。

あまりのショックで全身から力抜けて、その場に崩れ落ちた。

間違いない。


「久しぶり!お兄ちゃん♡」


満面の笑顔の。

白のワンピースを纏った、髪がポニーテールにしてある女の子。

成長した胸。

成長した身長。

俺は青ざめる以外、無かった。


咲が。


居た。






























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