Page13.雪の白にも負けないほどの・1
「わ、雪ですよ先輩!」
「あっ、ほんとだ」
お昼休憩が終わりそうになって、会社に戻ろうとした帰り道。朝から薄暗かった空から、とうとう白い花がちらちらと舞い降りてきた。
「何だかロマンチックですねー」
「帰り、大丈夫かな……」
ん……?
どうやら、同じものを見ても、わたしたちの感じることはどうやら違うらしい。ていうか、帰るときにも使う電車の心配をしている先輩に対して、ただはしゃいでるだけになったわたしって一体……。うぅぅ。
「ん、あぁ確かに。綺麗だよね……」
雪を見上げる先輩は、ちょっとだけ寂しそうだった。
その姿は、何だか妙に胸をざわつかせる。だって、雪を見上げて寂しそうにしてる先輩――ううん、
そんな顔をしている綺音さんを、思わず壊してしまいたくなる。
あぁ、駄目だ。
人ってどうしてこんなに欲が深いんだろう。
どうして、今のままで満足できないんだろう。
今はこうやって、綺音さんはわたしを見てるのに。
それでも、時々出てくる知らない綺音さんを我慢することが、どうしてもできなくなってしまう。もっともっと、欲しくなる。そんなのは無理だってわかってるけど。
わたしだって、全部を綺音さんに見せる覚悟なんてないくせに。
叶うなら、綺音さんの全部を知っているわたしになりたい――そんなことを思ってしまって。
「あっ、ねぇ綺音さん」
「ちょっと、外でその呼び方はやめて、って――」
「言い忘れてたことがあるんだけど、明日さ、前の彼氏が来るんだ。ちょっとだけお話したいって。それで潰れちゃっても嫌だから、今日会お?」
自分でも、何を言ってるんだろう、って思う。
それでも何でだろう、どうしても執着しててほしかったから。わたしが求めるだけじゃなくて、綺音さんにもわたしを求めててほしくなったから。口を突いて出たそんな言葉が効果抜群だったことは、綺音さんの目を見ればすぐにわかって。
仕事中も時々目が合う先輩に微笑み返すのが、とても嬉しくて。
「ね、もう寂しくなんかないでしょ?」
キスをした後。
部屋の中で思わず囁いた言葉に返ってきた「……うん」という遠慮がちな肯定が愛おしくて、わたしはぎゅ、っと抱き締めていた。
壊れないように、優しく、優しく。
きっと、この今を壊したくないのは綺音さんも一緒だと信じて。
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