Page21. ぬるいコーヒー・1
会社で見る
まぁ言ってしまえばいつも通り。
でも、周りにとっては何か違和感のある風に見えていたみたいで。
休憩中に声をかけてきたのは、同期入社の
「ねぇ、
「えっ、そう?」
「そうだよ~、
普段は何事も要領よく済ませてあとは時間を潰しているようなイメージがあったけど、なんか、けっこう周りも見てる子だったんだな……とか思ったりしたけど。
何より戸惑っていた。
えっ、綺音さんそんなに普段と違うかな?
ついこの間――なんて間隔ではなくて、ほんとについ昨日までかなり近くにいたはずなのに、今日の綺音さんがいつもと違うなんて、よくわからなかった。
いつもの仕事モードにしか見えてなかったけど……。
「ていうか、気付かなかった? まぁ、なんかふたり、お互いに見ないようにしてたっぽかったもんねぇ……、先輩も風香がミスってても今日は気付いてなかったっぽかったし」
「ぁ――」
言われてみたら、心当たりがないわけでもない……かも。
そんなことにも――ていうか自分の挙動にも――気付かないくらい、わたしも平常心じゃなかったのかも知れない。それを、あまり関わりのない相手に気付かされるなんて思いもしなかった。
「ま、なんかお悩みなら相談には乗るし? たぶんちゃんと聞いてあげられるかもだから、いつでもおいでー」
ポンポン、とわたしの頭を適当に叩いて、佐恵は席を立って「外の空気吸ってくるわー」と能天気な声で笑いながら、社食を出て行った。
残されたわたしはというと、ただ呆然としているだけで。
なんていうか、今日はわたしけっこう綺音さんのこと見てなかったんだな――なんてことも考えてしまっていた。いや、たぶん……。
「はぁ……」
「おっ、どしたの
「いえ、別に何もないですよ~?」
「えぇ~、ほんと~?」
……いかんいかん、ちょっと真面目になり過ぎたかも。
わたしに求められているキャラクターは、こうじゃない。
こういう時間は、仕事終わりにいくらでもとれるんだから。
とりあえず今のわたしに必要なのは、たぶんこういう時間だ。自分を見つめ直すんじゃなくて、もうちょっと下を覗いて、自分がちょっとはマシなんだって思い直す時間。少なくとも、相手の迷惑とか何も考えずにヘラヘラとセクハラじみた笑顔を向けてくる
そうしていれば、少なくとも悶々と自分ひとりじゃどうしようもないことを考え込むような時間は減らせるから。
* * * * * * *
「お先に~」
「お疲れ様で~す」
「伊藤がんば~、お先!」
「お疲れ様~」
……問題は、そういう相手も次々といなくなってしまった残業時間で。部屋にいるのは、さっきトイレに立った仏頂面の部長を除けばわたしだけ。キーボードを叩くことすらできずに手元の資料と画面を見比べること、はや1時間。
厳しいから怖いだけで、むしろアドバイスとかはちゃんとしてくれる人なんだけど、とにかく厳しくてメンタル折れるし……。
「はぁ……、」
今度こそ、人目もはばかる必要のなくなってしまったオフィスの中で半日分の溜息をつく。色々考えてしまってどうしようもなくて、だから仕事が手に付かないなんて言い訳はしたくないけど、まぁ手につかないというか……。
窓の外から見えるビル街の隙間からは、少しずつ陽光が消え始めていた。
「よ~し、やるか~……、」
気合を入れて、もう1回画面を見直し始めたとき。
「……だいぶ気の抜ける声だよ、風香」
「――――――、」
振り向かなくても、そのぎこちない声の主はわかった。
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