第12話 焼肉
私のストレス解消法は一人焼肉だった。翌日休みの時に混雑しない早めの時間を狙ってイベントは行われる。全ての用事を済ませてシャワーを浴びるだけの状態でお腹を十分に空かせ、どうでもいい格好で寮から徒歩で向かう。あえて他の人間には声をかけない。
集団で食べるとどうしても物足りなさを感じていた。ゆっくりと若干高めの上質の肉を味わいたい。ニンニクオイルで柔らかくなったニンニクをサンチュに乗せ、味噌を塗りつけて肉を挟んでかぶりつきたい。
ある焼肉屋の食中毒事件により規制されてしまったが当時は生のレバ刺し、ユッケが注文できた。私の大好物であり舌鼓を打ったがこれがいけなかった。仕事のストレスにより体調も悪く胃腸も弱っていたのかもしれない。
二日後の営業中に私は吐き気を催してトイレに駆け込んだ。上からも下からも液体が出て腹痛と気持ち悪さで立っていられない。私は病院に行って点滴を打った。
「もしかしたら細菌性の食中毒かもしれません。何か変な物食べましたか? 」
検便が取られて培養と確認検査により結果がわかるのは一週間後だと言われた。私は医者に言われた事を先輩に報告した。
「だから何だよ。要するに休みたいだけだろう? 自業自得じゃないの? 」
冷たく言われてひどくショックを受けた。その先輩とは相性が悪く嫌われている事を知ってはいたが、私は本当に苦しく立っているのも辛かったのだ。
やがて私は繁忙期の週末から自宅謹慎で休みになった。本当にどこにも行かずに消化の良い飲料水やヨーグルトだけを食べて、毎日体から毒素を出すように努めていた。からかい半分で見舞いに来た同僚に嫌味を言われる。
「俺も食中毒になろうかな〜」
「やめといたほうがいい。死ぬほど辛いぞ」
その後私はペナルティで連休がなくなり支店の手伝いをする事になった。休んだ分は働くしかない。マスクと手袋をつけて仕込みでも食材は触らずに掃除や内線の受け答えなどの雑用をこなしていた。
検査結果が届き私の腸内から三つの細菌が検出された。エロモナス・ソブリア、カンピロバクター、病原性大腸菌だった。
この時の私の支店への手伝いの働きが良かったらしく、その支店の人間が辞めた時の補充要員として私は転勤になった。
「明日からお前、支店勤務な」
経営陣からの辞令は口頭で五秒で終わった。いきなりすぎるが、店では結構普通にある事だった。不安でしかない。
私の急な転勤によりますます下っ端の人間は減り後輩は絶望しか感じなかった。同期では関西弁だけが残り、もう小言を言われなくなるかと思うと安堵した。後輩はとても不安がっている。
「すまない。でも会社の命令だからな。俺は行くよ。寮には居るし、また飲みに行こうぜ! 」
ちょうどいい機会なのかもしれない。ここにいても仕事で前進するとは思えなかった。思いがけない形で私は新天地に行く事になる。人生ってわかりませんよね。
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