第4話 憂さ晴らし
基本的にみんなノリはいいので遊ぶことは大好きである。ある土曜日の夜、先輩に言われた。
「行くよ! 」
「はい? どこにですか? 」
「いいから行くよ! 」
そのまま拉致されて先輩の借りてきたハイエースに乗せられる。頑なに行き先を言わない。飲みに行くのかな?
時刻は深夜二時。車は高速に乗り東京湾アクアラインを通る。初めて見る景色にみんなはしゃぎ始めた。海ほたるがガンダムのホワイトベースに見えてしょうがない。
「こんな巨大な建造物よく作ったよな」
同期が唸るが全くだ。漆黒の上にきらびやかに光る海ほたるは、夜の海に浮かぶ外国の豪華客船のようだ。ただのサービスエリアとは思えず壮大なスケールに圧倒される。
どうやら千葉に向かっているらしい。やがてみんなに眠気が襲いかかり瞼を閉じて静かになった。
先輩の実家に到着した。そこでサーフボード、釣り用具、水着を調達して鴨川の海に向かう。ミニストップのコンビニで酒とツマミ、ソフトクリームを購入した。
朝早くからサーファーが熱心に練習している。上級者も素人も一緒になってボードにプカプカ浮かびながら波を待っている光景を初めて生で見た。しょっぱい潮風を浴びて朝日を見ながら食べるソフトクリームは最高に美味い。
「きれいだろう? 」
先輩が問いかける。最近ギスギスしている後輩にこの景色を見せたかったらしい。そのあとは初めての波乗りに向けての先輩の講習が始まる。準備運動をして流れ止めの紐を片足に結んで海に入った。
最初はパドリングでさえ上手く出来ずにひっくり返るが徐々に慣れてきた。みんなと同じように浅瀬で波を待ち、腕立て伏せの要領でボードごと体を沈め、素早くボードの上に立とうとするが私は最後まで出来なかった。他の同期と後輩が成功して笑っている。
波と戯れ、全身運動をすると爽快感に溢れて気持ちがいい。朝、仕事の前にサーフィンをする人の気持ちが分かる気がした。
私は早めに丘に上がり海を見ながらビールを飲み太陽の光を浴びる。こんなにゆったりした時間はいつぶりだろうか? 波が砂浜に返り、水しぶきをあげ戻って行く様子はいつまでも眺めてられる。
みんながバテて丘に上がってきた。日差しもきつく人も多くなってきた。
「腹が減ったな」
ツマミでは足らず、先輩の行きつけの定食屋で海鮮丼を食べた。嘘みたいに量が多くしかも安い。都心で食べたら値段は跳ね上がるだろう。新鮮で味もよく全員がお代わりしてしまった。
帰り道の最初は先輩の運転で、途中で交代をしながら慣れない運転で東京に戻った。時刻は午後三時だ。私たちにも洗濯やら明日の準備などの野暮用はある。
「お前ら仲良くしろよ」
最後に何気なくそう言って先輩は帰っていく。我々のことを心配し元気付けるために、このサプライズイベントを実行してくれた。久しぶりにみんなが一つになり仲良く遊んだ。
それ以降私たちは頻繁に鴨川に遊びに行き、釣りやサーフィン、バーベキューなどを楽しむようになった。
「明日は海だな!」
「ああ、発泡スチロールのでかいやつに氷積めるから捨てずにキープしとけよ」
「分かってる。業務用スーパーで肉も買わないとな!」
「マグロも持ってくか! 」
「いいね〜! 」
店にはガスバーナーや氷、包丁、割り箸などバーベキューなどで使う道具が一通り揃えてあり出発地点としては非常に都合が良い。明日の準備を話し合う内にわだかまりは消え、またみんなと飲みに行くようになっていた。
先輩、あの時はありがとうございました。今でも感謝してます。
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