第3話 新しい後輩ができました
春になりまた社会の荒波に揉まれにきた若者たちが東京に集まる。彼らはこのコンクリートジャングルで生還できるのだろうか? 駅でリクルートスーツに身を包む子達を心配するおっさんになってしまった。
花粉が飛び散り涙が止まらないが桜が綺麗だ。平日に仕事をせずに花見しながら上野公園あたりで毎日酔いつぶれたいが、あいにく社会人にはそんな時間はない。おとなしく出勤した。
今回もいろんな子が全国から集まってきている。元トラックの運転手、元公務員、運動部でバリバリやっていた根性のありそうな男、どちらかというと暗めでおとなしそうな童顔の男。真面目なイケメン。果たして何人生き残れるだろうか?
とにかく二年目の職人が二人無事残ったので、新人の世話からは解放されたかに思えた。しかしまたもや先輩が辞めて、代わりに経験豊富な中途入社の方が入ったために出世は出来ず下っ端であることには変わりがなかった。嫌な予感がする。
案の定二人しか残っていない二年目だけでは、五人の面倒は見きれず我々三年生にもその負担が回ってくる。二年生は休みが被らないように一人は常に出勤しているがやはり限界があった。
「おい新人がまたやらかしたぞ! ちゃんと指導しとけよ! 」
「新人が遅刻した。お前が代わりに仕事しろ! 」
「今回の新人は使えないな〜 お前らもう一回「追い回し」からやり直すか? ちゃんと営業の仕方教えとけよ! 」
デジャヴだ。何度このような繰り返しをするのだろうか? 下のミスは上のミスになり一緒になって怒られる。俺たちのミスは? 俺たちの叫びは?
性懲りも無く関西弁が息を吹き返す。新人は奴の大好物だ。最初は甘い言葉で丁寧に教えるが徐々に言葉が強くなっていく。
「あれ、この前教えたやんな〜? 」
「何度言わせるん? 自分で考えろや! 」
「〇〇くん。今すぐ下にきてくれへん? 聞きたいことがあるねん」
関西弁劇場の幕が上がり徐々に消耗していく新人。二年生はそのフォローに回る。
「あいつの言葉を気にしたらいかん」
「適当に反省したふりしとけばいいよ」
「あいつ、人間じゃないから」
爆弾発言も飛び出すが、残念ながら新人のイケメンが心を病んでしまった。関西弁と一緒に営業してマークされてしまい、ある日寮から出てこなくなる。頬はこけてクマができ明らかにノイローゼだった。
「夢の中でも怒られているんです。もう、無理です」
彼は去った。また関西弁は経営陣から厳重注意を受けた。
「次やったらクビにする。いいか。次はないぞ」
店はますます繁盛して人手不足になり、下っ端に辞められると困る状況になっていたのは分かるがみんな納得していなかった。
「あんなクズ、さっさと辞めさせた方が店のためになる」
誰も言葉にしないが全員そう確信していた。残った新人は徒党を組んで関西弁に反抗するようになる。雰囲気は悪くなりますます憂鬱になるが、みんな何とか耐えていた。
一体何と戦っているのか? 考えすぎたら仕事をできなくなる。忙殺されて考えないようにして毎日を過ごしていた。
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