第19話 マジョリン

「あ、リサちゃん、おきたー? ねー、いっしょにあそぼっ!」


 莉紗ちゃんが目を覚ました事に気付いた麻理が、早速フェミピュアごっこに誘ってくる。

 しかし忠誠心が強く、麻理の望む事に何でも応じようとするレーナちゃんと違い、莉紗ちゃんは今までフェミピュアごっこに一度も参加していない。というか、レーナちゃんと同じくフェミピュア知らないと思うんだよね。

 どうしたものかと思いながら、一先ず莉紗ちゃんを地面に降ろすと、


「ふふふ……ついにみつけたぞ。さきほどは、こやつのせいでうごけなかったが、こんどこそ、おしまいだっ!」

「な、なんですってー! あなたは、おにーちゃ……じゃなくて、そのひとのなかま、マジョリンだったの!?」

「そのとおり。きさまをおって、きてやったぞ。さぁまじょのちからをみせてやろう!」


 レーナちゃんを遥かに超え、ノリノリでフェミピュアごっこに参加し始めた。

 莉紗ちゃんがフェミピュアを知っているのは、麻理の好きなアニメまで抑えていおこうという、メイドさんの性なのだろうか。家のリビングにあるテレビでアニメを全話録画してあるから、おそらくそれを視たのだろうけど、この世界へ来てすぐだと言うのに凄いな。

 莉紗ちゃんの対応に関心していると、キョロキョロ周囲を見渡し、近くにあった少し大きめの石の上によじ登り始めた。俺の膝くらいまである石なので、莉紗ちゃんの小さな身体では簡単に登れないし、落ちたりしたら危ない。なので、目的は分からないけれど、とりあえず後ろから抱きかかえ、その上に乗せてあげる。


「さぁ、ぶたいはととのった。しょうぶっ!」

「フェミレッド! ひをつかって、こうげきよっ!」


 莉紗ちゃんが俺に手伝ってもらった事を完全にスルーして、麻理たちフェミピュアチームに勝負を挑む。

 一方、リーダーみたいになっている麻理がサキちゃんに指示を出すと、元気よく必殺技の名前「キラキラバーニング!」と叫び、大きく手を前に突き出した。

 うん、流石は幼稚園児だ。恥ずかしさも躊躇いも無い、全力の声と仕草だね。いや、もちろん全力でやったからって、アニメみたく炎が出る訳ではないけどさ。

 でもそこは莉紗ちゃんがやられる演技をしてくれれば問題無い訳だけど……しかし空気を読まず、莉紗ちゃんが何事も無かったかのように仁王立ちを続けている。


「そんなっ! ひっさつわざがきいていないのっ!?」

「ふふっ。そんな、まほうなどマジックキャンセラーのまえには、むりょく。こんどは、こっちのばん」


 なるほど。直ぐにやられる訳ではなく、フェミピュアとの戦いを盛り上げようという訳か。けどフェミピュアに、マジックキャンセラーなんて技が出て来たっけ?

 莉紗ちゃんの背後で、落ちないように腰を支えながら考えていると、


「……きたれ、ケット・シー。きりさけっ!」


 黒いスカートを翻しながら、サキちゃんに負けず劣らずの大きな声で必殺技らしき名前を叫ぶ。

 いや、だからケット・シーは猫の妖精なんだってば……って、あれ? 確か前にもこんな事があった気がするんだけど、何だっけ?


「キュアイエロー。キラキラバリアーよっ! みんなをまもって!」

「はっ! キラキラバリア!」


 麻理の指示にレーナちゃんが律儀に付き合い、麻理の前に立つと、自らの身体を護るように両腕を交差させる。

 アニメのキラキラバリアは両の掌を前に突き出すのだけれど、麻理からそこまでの細かい指摘は無い様だ。


「くっ! バリアだとっ!? ぼうぎょまほうにもかかわらず、しょうかんまほうのはつどうをキャンセルさせるなんて」


 流石と言うべきか、莉紗ちゃんが「召喚魔法の発動をキャンセルされた」などと、もの凄く細かい設定を出してきた。幼稚園児相手に細部まで凝ってるけど、そろそろ次くらいで負けてくれると、ありがたいかな。


「むっ! よくみてみれば、きさまは、あのときの……ふん。さすがに、たったひとりで、いせかいへにげぬか」


 今度は何かに気付いた様子の演技で、驚きの声を上げる。しかし、莉紗ちゃんって演技が上手なんだね。悪役っぽい喋り方で、相手の攻撃の演技に迫真の演技で応じるし、おまけに声までよく通る。

 公園の中央で演じているからか、それともメイド服の莉紗ちゃんと金髪のレーナちゃんが居るからか、周囲からもの凄く注目されている気が……って、フェミピュア側が増えてない!? 麻理たち四人に加えて、いつの間にか幼稚園児くらいの幼い女の子が二人、小学生くらいの女の子が一人と、合計七人になっていた。


「ぞうえんか。めんどうだな。だが、きさまのじゃくてんは、すでにわかっている」


 お、何だろう。フェミピュアに弱点なんて設定されていたっけ? 確かアニメでは、フェミレッドの炎が水で相殺出来るっていうのがあったかな?

 どんな設定を出してくるのかと次の言葉を待って居ると、その莉紗ちゃんが突然振り返って俺を指さす。


「ふふっ。このおとこ……きさまが、このせかいでかりているおんなの、こいびとだろう? このおとこをまもりたければ、おとなしくしろっ」

「……えぇっ!? ここで俺に振るのっ!?」


 いやいやいや、それは無茶振りが過ぎるよ。今まで莉紗ちゃんが石から落ちないようにと、黒子に徹していたのに。

 莉紗ちゃんが展開に困ったのか、突然フェミピュアごっこに強制参加させられてしまった。


「えっ!? そんな……ダメだよっ!」


 うん。俺もダメだと思うな。

 最初は敵役が居なかったから俺が入ろうかと思っていたのだけど、莉紗ちゃんが敵役として参加したから無かった事になっていたのに。それが、いきなりフェミピュアの恋人だなんて。もちろんフェミピュアに恋人なんて居ないしね。


「マジョリン、ひきょうよっ! いますぐ、そのひとをはなしなさいっ!」

「うん。ひきょう、ひきょう。せいせいどーどーと、たたかいなさーい!」


 しかし、スルーしてくれれば良かったのに、いつの間にか混じっていた小学生や、サキちゃんが俺込みの設定でごっこ遊びを続けてしまう。あと、その人を離しなさい……って言われても、俺が莉紗ちゃんの腰を掴んでいる上に、離すと危ないんだって。

 そして麻理は、フェミピュアに無い恋人という俺が登場してしまい、困ってしまっている。とはいえ、せっかく小さな女の子たちが楽しそうに遊んでいるのというのに、それを俺がぶち壊す訳にもいかない。

 さぁどうしたものだろうかと考えていると、


「ざんねん。すなおにしたがっておけば、こいびとはたすかったのに。じゃあ、しになさい。……きたれ、ダークネス」


 莉紗ちゃんが俺に攻撃する演技を初めてしまったのだった。

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