第15話 入浴タイム
「たっだいまー!」
莉紗ちゃんとお茶を飲みながら、麻理の中にマリアというお姫様が入っている事を説明されたのだけれど、普段の麻理の行動は当然ながらいつも通りだ。
ただその時聞いた話は、マリアが王族とは言え、十四歳という俺と二歳しか変わらない年齢で、元居た世界の王国に脈々と受け継がれる凄い魔力を継承しているとか、その力が悪しき心を持つ者――夜の魔女――へ渡す訳にいかないと、偶然メッセージを受け取った俺の世界へ来たとか。それに、来る時に使った魔法装置が自動で転移先の座標や年齢なんかを設定するくせに、説明書が無いから数値の意味がわからないとか……って、最後は莉紗ちゃんの愚痴っぽい気もしたけれど、莉紗ちゃんやレーナちゃんたちがマリアを心配している事が窺えた。
「おかえりなさい。じゃあ、三人とも手を洗ってきてね。今日は、莉紗ちゃんの歓迎パーティよー」
香奈さんに促され、手を洗ってリビングへ行くと、
「うわー、すごーい! ママがつくったのー!?」
「そーよー。凄いでしょー」
食卓の上には子供が好きそうな……というか、麻理の好きなハンバーグやパスタにポタージュスープとか、それぞれの分量を少なめに数多くの料理が並んでいる。
「ごめんねー。莉紗ちゃんの歓迎パーティだから、本当は莉紗ちゃんの好きな物を並べられれば良かったんだけど、何が好きとか聞けてなかったから、麻理の好物が中心になっちゃたけど」
「いえ、マリさんにあわせていただいて、だいじょうぶですの。うれしいですの」
「ねーねー、たべていいー?」
「麻理、ちょっと待ってねー。今日の主役は莉紗ちゃんだから、莉紗ちゃんが席に着いてからよー。えーっと、じゃあ莉紗ちゃんは、そこの席に座ってね」
香奈さんが、父さんの正面で俺の横となる席――麻理のへ促すのだが、
「あの……イスがよっつしかないのですが、リサがすわっても、だいじょうぶですの?」
「あぁ、そういう事か。それなら大丈夫だよ。普段から麻理は俺の膝に座るし」
「うんっ。マリ、おにーちゃんといっしょがいいー」
俺と麻理の言葉を聞いて、ようやく莉紗ちゃんが席に着く。
だが、普段から麻理が俺の膝に座っているから気付かなかったけど、子供用の椅子では無い普通サイズの椅子なので、莉紗ちゃんが普通に座ると食卓へ高さが合わない。
「よし、莉紗ちゃん。おじさんの膝の上においで。いや、これからは一緒に暮らすわけだし、何も気を使わなくて良いんだよ? ほらほら、遠慮しないで」
「あなた。どうして、そんなに嬉しそうなのかしら?」
「えっ!? い、いや、別に変な事なんて一切考えてないよ? か、香奈っ! 本当なんだってば」
父さん。だったら、どうして「嬉しそうなのか?」という問いに対しての答えが、「変な事を考えていない」になるんだよ。その時点で既に……いや、せっかくのパーティの雰囲気を壊したくないから突っ込まないけどね。
まぁ香奈さんも既に察したみたいだけど、俺と同じ考えなのか無言で居てくれている。
「えーっと、とりあえず莉紗ちゃんの席には、クッションか座布団で高さを調整してみたら?」
「そ、そうね。それが良いわね。あ、これなんて丁度良いと思うわ」
「はい、だいじょうぶですの」
「えぇー。莉紗ちゃんも、麻理みたいにおじさんの膝の上に座れば良いのにー」
父さん、空気読めよ。
笑顔だけど、香奈さんは目が笑っていない。そんな視線に気付かない父さんを放っておいて、俺たち三人は美味しく料理をいただいたのだった。
……
「ごちそうさまー」
好きな料理がばかりだったからか、俺と莉紗ちゃんが食べ終わった後に、ようやく麻理が食事を終える。
「じゃあ、お風呂だけど……麻理は直樹君と一緒に入るのよね?」
「うんっ。おにーちゃんとはいるー」
「そう。じゃあ、莉紗ちゃんも一緒に入る? 麻理と一緒の方が良いわよね?」
「はい。いっしょが、よいですの」
まぁ広いお風呂じゃないけれど、莉紗ちゃんとなら三人でも入れるか。莉紗ちゃんは自分で身体とか洗えるのかな? 麻理はいつも俺が洗っているけど……って、ちょっと待て!
莉紗ちゃんは見た目こそ四歳児だけど、中身は十四歳だって話だろ!? 思春期ド真ん中の女の子が、そう年齢の変わらない男と一緒にお風呂だなんて、マズイだろ!
「ちょ、ちょっと待った。その……莉紗ちゃんは香奈さんと一緒の方が良いんじゃないかなー?」
「あら、どうして? 莉紗ちゃんは麻理と一緒が良いって言っているし、麻理は直樹君と一緒が良いって言っているのに?」
「うっ……そ、そうだけどさ。その、何て言うか、恥ずかしいよね?」
これは莉紗ちゃんだけでなく、俺もだけど。莉紗ちゃんは俺に裸を見られるわけだし、俺だって四歳児じゃなくて、十四歳の中学生の女子と一緒にお風呂だなんて……無理だよっ!
「直樹君。莉紗ちゃんとは、これから家族同然の様に付き合っていくのよ? 一人でこの家へ来た莉紗ちゃんに対して、壁を作ってはダメよ。だいたい、毎日麻理と一緒にお風呂へ入っているじゃない」
「い、いや、そうだけどさ。何て説明すれば良いんだろ」
もちろん、莉紗ちゃんが本当は十四歳だなんて事は、絶対に言えない。話しても信じて貰えないだろうし、確実に引かれるのが目に見えている。
「リサも、おにいさんといっしょに、おふろへはいりたいですの」
「ほら、リサちゃんもこう言っている事だし、一緒に行ってあげて」
うわぁぁぁ。莉紗ちゃんが口では可愛らしく言っているものの、香奈さんたちに背を向け、俺にはもの凄くニヤニヤした顔を見せている。絶対にこの状況を楽しんでるよ。
「ふむ。直樹がそうまで嫌がるなら仕方が無い。やはりここは、おじさんと一緒にお風呂へ……」
「わかったよ! 行くよ。三人で一緒に入ろう!」
「えっ!? 直樹ばっかりズルくない!?」
流石に莉紗ちゃんを、父さんと一緒に入浴させるわけにはいかず、ヤケクソ気味に麻理と莉紗ちゃんの手を引いて脱衣所へ。
遠くで、低い声の香奈さんが父さんを呼んでいる気がするけど、聞こえない事にして麻理の服を脱がすと、
「おにーさーん。リサのふくもー、ぬがしてほしいですのー」
「いや、絶対自分で脱げるよね?」
「えー。リサ、よんさいだからー、むりですのー」
先程よりも一層ニヤニヤした莉紗ちゃんが、早く早くと俺を急かす。
既に麻理が裸だし、万が一にも風邪を引かせる訳にはいかないので、子供用のメイド服を手早く脱がすと、声のトーンを落として莉紗ちゃんに話しかける。
「……莉紗ちゃん十四歳だよね? 俺に裸とか見られて恥ずかしくないの?」
「……いまのリサは、よんさいのからだですから、きにしませんの。それより、おにいさんも、はやくぬいでくださいですの」
「……えーっと、どうして、動かずにワクワクしているのかな?」
「……ワクワクだなんて、きのせいですの。それより、おきがえを、おてつだいしたほうが、よろしいですの?」
「……ぬ、脱げば良いんだろっ! 脱げばっ!」
まるで、莉紗ちゃんは水着姿で、俺は一人全裸かのように思える、不公平? な入浴を終え、思わずぐったりしてしまったのだった。
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