第18話 フェミピュアごっこ
「ねー、おきてー! はやくおきてよー! おにーちゃんっ!」
麻理の声が聞こえたかと思うと、突然顔全体に柔らかい何かが覆い被さってきた。
それにより視界も奪われてしまったので、ムニムニしているのにスベスベしている何か――としか言いようの無い物が俺の顔に乗っている。
「ちょっ! 麻理なのか!? 一体、お兄ちゃんの顔に何を乗せたんだっ!?」
「きゃはははっ! おにーちゃん、くすぐったいよー!」
何故か麻理が笑いだし、そしてムニムニとしたものが暴れ出す。
結局これは何だ? と顔の辺りに手を持ってくると、柔らかくて温かくて、でも触ると弾力とハリがあって俺の指を弾き返すこれは……麻理か。
「麻理。お兄ちゃんの顔に乗っちゃダメだから」
「だってー、おにーちゃんねてたもん。リサちゃんがいるから、マリはのれないもん」
麻理が俺の顔から降りたのだが、シャツが捲れてお腹が見えている。どうやら、さっきのムニムニしてスベスベしていたのは、麻理のお腹らしい。
一方、麻理が乗れないと言った俺の上には、莉紗ちゃんがスゥスゥと寝息を立てて眠っている。
「ねー、おにーちゃん。あそぼー! マリ、こうえんいきたいー!」
「うーん、そうだなー。でも、莉紗ちゃんがまだ寝てるんだよなー」
「あそびたいー! ブランコー! すべりだいー!」
「はいはい。じゃあ、お兄ちゃんは莉紗ちゃんを抱っこして行くから、公園まで走らないでね」
「はーい! わかったー」
元気の良い麻理の返事を聞いて家を出ると、麻理が思いっきり走って行く。家の中では分かったって返事してたけど、もう忘れちゃったんだろうな。
まぁでも、そんな麻理も可愛いけどねっ! とはいえ、俺は走れないので莉紗ちゃんを抱っこしながら早歩きで着いて行く。
麻理に少し遅れながらも公園に着くと、既に麻理がレーナちゃんに遊ぼうと言っている。
「レーナちゃんは、いつも先に公園へ居るけど、ここで麻理を待って居るの?」
「はい。ひめさまにあうのであれば、ここがいちばんよいかと」
「でも、幼馴染みって事になっているんだよね? だったら、家に直接来たら良いのに」
「いえ、ひめさまのごえいきしといえど、ひめさまのごじたくへうかがうなど、おそれおおくて」
いや、護衛騎士だからこそ、自宅とかに来ても良いと思うんだけど。それに、莉紗ちゃんなんて同じ布団で寝ていたりするしさ。
レーナちゃんは騎士だから、主従関係を重んじているのだろうか。いろいろと異世界のルールがあるようだ。
「まぁでも、マリアちゃんとの事が無かったとしてもさ、ほらレーナちゃんと麻理はもうお友達だよね。だから、いつでもおいでよ」
「おにいさま、ありがとうございます」
そう言って、レーナちゃんが片膝をついて頭を下げる。
「おにいさま。そういえばリサは……ねむっているのですか?」
「うん。一緒に寝てたんだけど、俺だけ起こされちゃって」
「いっしょにねてた!? まさか、おなじベッドで?」
「あぁ、うん。まぁうちは布団だけど」
「おなじベッドのなかで、おにいさまやひめさまと!? や、やっぱり、わたしも……おうちへ、お、おじゃましてよろしいですかっ!?」
レーナちゃんが恥ずかしそうに、もじもじと俺の顔を見上げ、そして小さな手で俺のズボンをギュッと握ってきた。
いや、だから来て良いって言っているのになぁ。
「おにーちゃん。フェミイエローとあそんでくるー! ね、いこー」
「は、はいっ! ただいま、まいります」
「いってらっしゃーい。それとレーナちゃん、いつでも家に来てよいからねー」
麻理に手を引かれながらも、ずっと俺の顔を見続けるレーナちゃんに声を掛けると、ようやく安心したのか前を向いて歩きだす。
二人が――というか麻理が今日のフェミピュアごっこの場所に決めたのは、公園の中心にあるちょっとした丘の上だ。あまり離れ過ぎるのも良くないので、俺は莉紗ちゃんを抱っこしたまま、近過ぎず遠過ぎずの少し離れた遊具に腰掛ける。
「フェミイエロー! きょうこそ、マジョリンをたおすわよっ!」
「はっ! ぜんりょくで、おまもりいたします」
相変わらずレーナちゃんが麻理のごっこ遊びに付き合ってくれているけど、きっと本人はフェミイエローって言われても何の事か分かっていないんだろうな。でも、フェミイエローが防御系の魔法少女だから、微妙に話が合っちゃってるんだけど。
二人はそのまま丘の上を走り周ったり、フェミピュアの敵であるマジョリンが隠れていないかと、ベンチの裏とか滑り台の下とかを覗いているのだが、そこへ見知らぬ幼い女の子たちが近づいてきた。
「マリちゃーん! なにしてるのー?」
「あ、サキちゃんとアオイちゃん! いまねー、フェミピュアごっこしてるのー。いっしょにあそぼー!」
「うん。じゃあ、サキはフェミレッドー。アオイちゃんは、ブルーでいい?」
近づいてきた二人、サキちゃんとアオイちゃんは、どうやら麻理のお友達らしい。サキちゃんは麻理と同じ位の背丈で、短いスカートを全く気にせず飛んだり跳ねたりしている、ショートカットの活発な女の子だ。
一方、アオイちゃんと呼ばれた女の子は、小柄な麻理よりも更に少し小さい。少し大人しそうな感じで、時折サキちゃんに手を引かれながら三人について行く。
しかし、こうして麻理と同年代の子供を見ていると、本当に幼稚園で麻理がお姉さんキャラなんだなと感じる事が出来るな。自由奔放な感じのサキちゃんにごっこ遊びのルールを話し、大人しそうなアオイちゃんに話しかけている。まぁ見た目は同じくらいでも、レーナちゃんと莉紗ちゃんは、ちょっと違うからね。
四人に増えた幼い魔法少女たちを暫く見守っていると、その中の一人、サキちゃんが無邪気な笑顔で話しかけて来た。
「ねー、さっきから、こっちをみてるけど、にーちゃんはだれなのー?」
「ん? 俺――じゃない、お兄ちゃんはね……」
「ダメぇっ! フェミレッドにげてっ! そのひとは、てきよっ!」
えぇぇぇーっ! 麻理から敵役に認定されたーっ! いつも家で遊ぶ時は、俺をフェミピュアのピンク以外の色へするのに。
あ、でも今日は四人も居るからフェミピュア側は十分居るのか。あとグリーンが居たら五人揃うしね。じゃあ今日は、麻理のリクエストに応えて敵役となりますか。
「はっはっは。バレては仕方が無い。俺様はマジョリン様の部下、ナオキーン」
「……ぶか? って、なぁにー?」
「えっ!? えーっと、手下っていうか、家来っていうか、とにかく悪い人なの。フェミピュアの敵なんだよ」
莉紗ちゃんを抱きかかえたまましゃがみ込み、不思議そうな顔をするサキちゃんに部下の意味を説明する。
まぁでも、普通の幼稚園児はこんな感じになるよね。最近は幼い姿で難しい言葉を使われていたからか、この当たり前な反応が新鮮に思えてしまう。
「うん、わかったー。フェミパーンチ!」
「おぉっと!」
俺が敵役だと分かった途端に、サキちゃんが原作に無い技の名前を叫びながら、普通に殴りかかって来た。
いや、もちろん幼稚園児のパンチだし、当たっても痛く無さそうだけど、身体が避けようと反応してしまう。
だけど腕の中には眠る莉紗ちゃんが居るので、俺はバランスを崩してしまい、立ち上がりざまに後ろへ数歩よろめいてしまった。その時に身体を大きく揺らしてしまい、
「ん……ここどこー?」
スヤスヤと眠っていた莉紗ちゃんだったが、その振動で起きてしまった。
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