第四章 にぃに大好き
第17話 メイドさん幼稚園へ
翌朝。
いつものように、胸の上でスヤスヤと眠る麻理を起こさず、無事にリビングへ行くと、
「おはようございますの」
「莉紗ちゃん、おはよ。随分、朝早いんだねー」
「リサはメイドですの。とうぜんですの」
メイド服姿の莉紗ちゃんが、トーストを乗せたお皿を両手で支えながら、胸を張る。
しかし昨晩は、麻理の予備のパジャマを着ていたので、わざわざメイド服に着替えたのか。だけど、今日から莉紗ちゃんも幼稚園に通うはずなので、後で制服に着替えないといけないんだけど、メイドへの――リカちゃんへの想いの方が強いのだろう。
「おにいさん。もう、あさごはんのじゅんびができていますの。はやく、すわりますの」
父さんや香奈さんとも挨拶を交わして席に着くと、いつものトーストに加えて、サラダとヨーグルトが用意されている。
「直樹。なんと、そのサラダは莉紗ちゃんが作ったんだって。残さず食べるんだぞ」
「へぇー、莉紗ちゃん凄いんだね。そんな事も出来るんだ」
「とうぜんですのっ! からだはちいさくても、これくらいはできますのっ!」
まぁ言われてみれば、その通りか。レタスを千切り、プチトマトを並べてドレッシングを掛けたサラダだから、包丁とかも使わなくて良さそうだし。
関心して、隣の席に座る莉紗ちゃんを見てみると、何故か俺の膝の上――麻理の席へ来ようとしていた。
「こ、これは、リサのいすにクッションがないから、しかたなくですのっ。へんないみは、ありませんのっ!」
まだ俺は何も言ってないんだけど、莉紗ちゃんが何故か言い訳をしながら膝の上に腰掛け、耳を紅く染めながら、モグモグとサラダを食べ始める。
昨日のお風呂と同じで今は四歳の時の身体だから、俺に見られても密着しても平気とだという事なのだろう。けど四歳の身体なのだから小さくて当然で、そのまま椅子に座ると食事が出来ないからって、耳まで紅くして恥ずかしがらなくても良いのに。
って、待てよ。莉紗ちゃんは中身が十四歳なのに、今日から幼稚園だなんて、耐えられるのだろうか。それとも、マリアに仕えるためと、頑張るのだろうか。
レーナちゃんは姫様が望むのならばと、フェミピュアごっこまでも一緒にするくらいだから、幼稚園も割り切って行ってそうだけどさ。
しかし同じ四歳で、麻理も莉紗ちゃんも小柄なのに、脚に乗った感じは少し違うんだな。莉紗ちゃんの方が麻理より少しだけスリムで、体重も軽い。決して太っている訳ではないけど、麻理の方がお尻や太ももがムニムニしていて、脚に触れる柔らかさと触れ心地が……って、俺は一体何を考えているんだろう。
何となく一人で気まずくなり、周囲に目をやると、壁に掛けられた時計が目に映る。
「あーっ! もうこんな時間だったのか! 莉紗ちゃん、ごめん。俺、学校へ行ってくるよ」
「それでは、おきがえのじゅんびをいたしますの」
「いや、自分で出来るし、本当に時間がやばいから。ごめんね」
幸い、莉紗ちゃんの残っている食事がヨーグルトだけだし、既にスプーンも器も手にしているので、俺の膝の上でなくても食べられるだろう。
抱きかかえて本来の莉紗ちゃんの席へと座らせ、慌てて自室へ戻ると急ぎながらも静かに、決して麻理を起こさないように着替えを終える。
「……いってきまーす」
麻理に小さな声を掛けると、大急ぎで学校へ。
何とか間に合……わず、遅刻となってしまったのだった。
……
放課後。
遅刻の罰で掃除をさせられ、いつもより少し遅れて帰宅すると、玄関前で香奈さんと遭遇する。
「あ、直樹君。おかえりなさい。ちょっとお買い物に行ってくるから、麻理の事をお願い出来るかしら? 子供服を買いに行くから、ちょっと帰宅時間が読めないんだけど」
「そうなんだ。まぁでも大丈夫だよ。いってらっしゃい」
「いつもごめんね。いってきまーす」
そう言ってパタパタと駆けて行く香奈さんと入れ替わりで家の中へはいる。
「ただいまー」
あれ? 珍しく麻理が走って来ない。さっきの香奈さんの口ぶりだと、麻理は家に居るはずなんだけどな。
一先ず自室へ向かおうと玄関を上がると、莉紗ちゃんが立って居る。今日のメイド服は昨日の白と水色のワンピースではなく、白いシャツと黒いスカートの上下分かれたものだ。どうやら、メイド服にもいろんなタイプがあるらしい。
「莉紗ちゃん、ただいま」
「え、えっと……お、おかえり?」
「今日は大変だったね。お疲れ様」
「……べ、べつに、たいしたことない」
大したことは無いと言いながらも、やはり初めての幼稚園で疲れているのか様子が変だ。
小さなおでこに手を当ててみると、少し熱い気がする。
「な、な、な、なにをっ!?」
「うーん、メイドさんとして家事をしてくれるのもありがたいんだけどさ、少し休んだら?」
と言っても、莉紗ちゃんはメイドだからと言って、休もうとしないのは目に見えているので、返事が来る前にその小さな身体をひょいっと抱き上げた。
「ちょっ! ど、どこをさわって……えっちっ!」
「はいはい。別に四歳の身体なんだから、触られても平気なんでしょ?」
「よんさいっ!? どうりで……って、さわられているかんかくは、いっしょなんだからっ!」
「え? でも昨日は自分で身体を洗えないとか麻理みたいな事を言って、俺に身体を洗わせたよね?」
今朝の事を考えると、完全に俺をからかっていただけとなるけど、昨日のお風呂で莉紗ちゃんは、ニヤニヤしながら麻理の身体を洗うように自分の身体を洗って欲しいって……今日は自分で洗ってもらおう。
まぁそんなわけで、莉紗ちゃんが今さら抱っこされてジタバタするのは、また俺をからかっているんだと決めつけ、そのまま俺の部屋へ。
そこには俺の布団が引かれていて、麻理がスヤスヤと眠っていた。
「あ、麻理は眠っちゃってたのか。じゃあ、莉紗ちゃんも一緒に寝よっか」
「えぇっ!? どうして、そうなるのよっ!」
「今日は朝も早かったし、それに身体をしっかり休めるのもメイドさんの重要な仕事の一つだよ。というわけで、強制的に休憩ー」
麻理が俺の上にうつぶせで眠る時のように、莉紗ちゃんを抱きしめたまま麻理の横に寝転ぶと、逃げられないようにギュっと莉紗ちゃんの身体を抱きしめる。
こうでもしないと、この小さなメイドさんは休まないだろうしね。
「ひゃあっ! お、おねがいっ。ねるから……ひとりでねるから、はなしてぇっ!」
「莉紗ちゃん。麻理が寝てるから、静かにね」
そうは言ってもモゾモゾしていた莉紗ちゃんだけど、暫くすると諦めたように俺の胸に顔を埋めてきた。
麻理よりも少し荒い呼吸を少しくすぐったく感じながらも、そのうちに俺も眠ってしまったのだった。
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