第6話 異世界の女騎士
金色に輝く長い髪の毛を風に揺らし、碧眼の幼女が走り寄ってきた。
麻理より少し大きいので幼稚園の年中さんだろうか。でも麻理は四月生まれだけど身体が小さく、同じ年少クラスでまだ誕生日を迎えていない三歳児たちと並ぶ……下手をすれば、麻理の方が小さかったりする。なので、麻理と同じ年少さんかも。
しかし、金髪白人の幼女は人形みたいに可愛いなぁ。白いワンピースの上に、薄手の青いスプリングコートを羽織り、コートに合わせた青いリボンで金髪を纏めているから、かなりのオシャレさんなのだろう。麻理も三歳くらいから服に拘りだしたし。とはいえ、もちろん麻理の方が可愛いけどね。
と、そんな事を思っていたら、麻理の近くまで辿りついた金髪幼女が、突然その場にしゃがみ込む。
「ひめさま、よくぞごぶじで。おくればせながら、このレーナも、ひめさまのつかわれた、まほうそうちをもちいて、さんじょういたしました」
「ふわぁぁぁっ! イエローだぁっ! カッコいぃぃぃっ! おにーちゃん、フェミイエローだよっ!」
金髪幼女が流暢に日本語を話し、麻理がその雰囲気でカッコ良いと喜んで居る。フェミイエローと言っているのは、金髪だからだろう。
しかし、外国人だと思っていたけれど、イントネーションも変じゃないし、ハーフなのだろうか。それとも、親が日本で英会話の先生をしているとか? 流石に日本語が上手過ぎる。遅ればせながらとか、参上いたしましたなんて、純日本人の麻理でも知らないと思うんだけど。
それにしても、姫様とか魔法装置とかって、何の事だろうか。
「じゃあ、レナちゃんがイエローね。マリは、おひめさまじゃなくて、フェミピンクがいいなー」
「はっ。かしこまりました」
あー、なんだ。フェミピュアの話か。割と最近に、悪い魔法使いからお姫様を助ける回があったような気もするし、ごっこ遊びの設定だね。
麻理はレナちゃんって呼んでたけど、お友達かな? あんまり見た事ないけど。
「まず、げんじょうをほうこくしますと、おくには……くには、まじょのこうげきにより、ただいなダメージをうけております」
「なんですってー。みんな、だいじょうぶなのっ!?」
国が魔女の攻撃で多大なダメージ……って、フェミピュアの姫様救出回はそんな話だっけ? まぁ女の子だし、自分でアレンジしたりしてるのかな? 麻理も気にしていないみたいだし、たまには麻理がお友達と遊ぶ様子を観察させて貰おうかな。
「はい。ひめさまが、いせかいてんいしてくださったので、まじょがひめさまをさがすため、さまざまないせかいへいっています。そのため、くにへのこうげきは、おわりました」
「そうなんだ。おわって、よかったね」
えーっと、レナちゃんは、どこで異世界転移なんて言葉を覚えたのだろうか。魔女が姫様を探すために様々な異世界へ行っているって……レナちゃんの親は、どんな絵本を読み聞かせているのだろうか。
てか、異世界転移なんて言葉が出てくる幼児向けの絵本なんてあるのかな? もちろんフェミピュアに異世界転移なんて言葉は出てこないし。……まさか、外国人が時代小説で日本語を勉強したなんて話があるけど、レナちゃんの親がWEB小説で日本語を勉強したとか!?
「ですが、あいてはきょうだいなちからをもっています。ほしのかずほど、いせかいはたくさんありますが、いつこのせかいをさがしあてるか、わかりません。おきをつけください」
「わかったわ。フェミイエロー、ありがとー」
「いえ、わたしは、すべてをひめさまにささげた、せんぞくのごえいきし。たとえ、いせかいであろうとも、かならずおまもりいたします」
星の数ほど異世界が沢山ある……やっぱりWEB小説の事だろうか。異世界ものなんて、数えきれないくらいあるしさ。
しかし、麻理も異世界って言われて話が通じている。もちろん、俺が麻理に異世界の絵本なんて読んだ事は無いし、もしかして幼稚園で異世界が流行っているのか!?
あ、でもフェミピュアたち魔法少女が居る世界と、地球は別世界という設定だったような気もしてきた。でも、専属の護衛騎士なんて言葉はあったかな? と、今のフェミピュアシリーズが放送された当初の事を思い出していると、ようやくレナちゃんが立ち上がる。
レナちゃんは背筋をピンと伸ばした、麻理と同じ年少さんとは思えない立ち方で、凛とした雰囲気を纏う。そして、直立不動の姿勢で俺に身体を向けると、
「ひめさまのおにいさまも、わたしがかならずまもってみせます!」
そう言いながら、まるで本物の騎士かのように跪いた。
いや、お嬢ちゃん。俺、高校生なんだけど……って、違うな。完全に園児二人の世界だと思っていたけど、俺もごっこ遊びに含められているのか。
せっかく楽しそうに遊んでいるのだから、ここで俺が流れを断ち切る訳にもいかない。麻理のためにも、設定に乗ってあげないと。
「うん。頼りにしてるよ、フェミイエロー」
「えぇー、おにーちゃんはマリがまもるのぉー」
「あ、あれ? 護ると言えば、フェミイエローだよね? バリア使えるし。フェミピンクは怪我を治すんだよね?」
「それでも、おにーちゃんはダメー! マリがまもるんだからー!」
フェミピュアごっこの話のはずなのに、俺の言葉で麻理が拗ねてしまった。
よく考えたら、俺が麻理のお友達と一緒に遊ぶのは初めてか。香奈さんとは違って、俺が麻理と一緒だと、幼い女の子……というか、お母さんが離れていくからな。まさか麻理がこんなリアクションするなんて予想してなかったよ。
そして、麻理がレナちゃんとのごっこ遊びをそっちのけで、俺の脚に抱きついてきてしまった。
「うん、そうだね。麻理もお兄ちゃんを護ってね」
麻理の目線までしゃがみ込み、よしよしと小さな頭を撫で、その身体を優しく抱きしめてあげる。やきもちを妬いてしまう麻理も可愛いなぁ。
けど、急に遊びから抜けてしまったから、レナちゃんが困って……というか、怒ってる? ワンピースの白いスカートを小さな両手でギュッと握りしめ、ふるふると震え……って、スカートの裾が持ち上がっちゃってるよ?
レナちゃんの細い太ももが露わになり、水色のパンツまで見えちゃってるけど、幼稚園児相手だし変な事を言わない方が良いかな? 実際、麻理の入園式なんて、そこかしこでパンツ見えてたし。
一先ず、落ち着いてきた麻理を、レナちゃんとの遊びに戻そうとしたところで、
「うぅっ……ひめさまが、ひめさまがぁ……」
レナちゃんの大きな青い瞳から、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちてしまった。
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