第12話 メイド服
「麻理ー。莉紗ちゃんとレーナちゃんの所へ行くから、一緒においでー」
「レーナちゃん? ってだれー?」
麻理はともかく、莉紗ちゃんに凝視されながら着替えを終え、さぁ出掛けようとした所で、麻理から思わぬ答えが返ってきてしまった。
「レーナちゃんだよ。昨日、公園で一緒に遊んだ金色の髪の子だよ」
「あー、フェミイエローだー! あのこ、レーナちゃんっていうんだねー」
「あれ? いつも幼稚園に行く時、一緒に遊んでるんじゃないの? 父さんが仲良しだって言ってたよ?」
「ううん。しらないこー。きのう、はじめてあそんだよ?」
一体どうなっているんだろう。麻理が何か勘違いしているのだろうか。いやでも、流石に金髪のレーナちゃんは間違えようが無いと思うんだけど。
それに香奈さんだって、レーナちゃんとよく遊んでる……って、そうだ。俺もあの時、不思議に思ったよな。向かいの家は空き家のはずだし、レーナちゃんの面倒を見た事なんて無いって。麻理を寝かしつけて、そのまま忘れちゃってたけどさ。
俺と麻理はレーナちゃんを知らない。けど、父さんと香奈さんは以前からレーナちゃんを知っていると言う。どうしてだ?
「おにいさん。ふしぎそうなかおをしていますが、レーナさんにあったら、ちゃんとせつめいしますの」
俺の心を読んだかのように、莉紗ちゃんが説明してくれると言う。四歳児とは思えない洞察力で、まさか本当に魔法……いやいや、そんなわけはない。
麻理がレーナちゃんの事を知らないというのが勘違いで、俺も向かいの家を空き家だと思い込んでいたというのが妥当なところか。
まぁとにかく向かいの家に行ってみれば分かると、麻理に靴を履かせ、
「ちょっと待った。莉紗ちゃんはその格好で行くの? お着替えしようか」
「いいえ。リサはメイドですから、このままいきますの」
「いや、その格好で外に出るのは……ちょっと待ってて」
莉紗ちゃんがフリフリのメイド服姿だという事を思い出し、二人を玄関で待たせたまま慌ててリビングへと戻る。
「父さん。莉紗ちゃんを連れて麻理と遊びに行くから、莉紗ちゃん最初に着てた服を出してくれない? 流石にあの格好で外は出れないだろ?」
「ん? 構わないが、あんまり大差ないんじゃないか?」
「えっ!? どういう意味?」
「莉紗ちゃんが自分で言ってなかったか? まぁとにかく、莉紗ちゃんの服は洗濯籠に入っているから、自分の目で確かめた方が早いぞ?」
よくわからない父さんの話だけど、一先ず言われた通りに脱衣所の洗濯籠を覗いてみる。そこには、白と水色のワンピースが入っていた。
「なんだ、普通の服じゃないか……って、これもメイド服っ!? しかも、今着ているのよりもスカートが短いっ!?」
えっと、何これ。どういう事!? 一先ず、その水色メイド服を手にしてリビングへ。すると、俺より先に父さんが口を開く。
「そういう事だ。莉紗ちゃんは将来メイドさんになりたいんだってさ。その夢を父さんの弟も汲んでいて、莉紗ちゃんの望み通りのメイド服を買ってあげてたらしい」
「えっ!? じゃあ、莉紗ちゃんが今着ている、父さんがプレゼントしたっていうメイド服は、父さんが押し付けたんじゃないの?」
「押し付ける? いや、父さんならメイド服よりもケモミミ……コホン。あのメイド服は、莉紗ちゃんがうちに来る記念に何かプレゼントするけど、何が欲しいって聞いて、莉紗ちゃん自身が希望したものだぞ?」
マジか。莉紗ちゃんは喜んで自らメイド服を着てたんだ。けど、あの格好で家の外を歩くのは辛いなー。
とりあえず麻理のクローゼットから、可愛らしいフリル多めのピンクのスカートと白いブラウスを取り出して玄関へ。
「莉紗ちゃん。その格好でお外へ行くと服が汚れちゃうから、こっちの服にお着替えしない? ほら、ピンク色で可愛いよ?」
「いえ、リサはメイドであるべく、このふくがよいですの。リサをメイドでいさせてほしいですの」
莉紗ちゃんは、やはり四歳児とは思えない強い意志を込め、断固として着替えを拒否してくる。何がこの子を、そこまでメイドに固持させるかは分からないけれど、ここまで強く望んでいる以上、無理強い出来ない。
まぁ服への拘りに関しては、麻理だって結構強いしね。女の子は幼い頃から、自分の思うファッションがあるんだろうな。
「莉紗ちゃんのメイドさんになりたいって言う気持ちは分かったよ」
「すみませんですの。でもこれだけは、どうしてもダメなんですの」
「……わかった。うん、いいよ。行こうか」
小さな女の子がここまで言っているのに、それを無理矢理止めさせるなんて事は俺には出来ない。それにメイド服と言っても、ちょっとヒラヒラしたフリルが多い、ただの服じゃないか。裸で出歩く訳じゃないし、気にする程でもないよっ!
自分自身にそう言い聞かせると、莉紗ちゃんとのやり取りをじっと待って居た麻理の手を握り、玄関の扉を開くと莉紗ちゃんの手を取って家を出る。
目的地は徒歩で十数秒の向かいの家。表札などは無いが、玄関周りが綺麗に掃除されているので、不動産屋さんが掃除をしているのか、それとも本当に誰か住んでいるのか。
――ピンポーン
とりあえずインターホンを押してみるが、反応は無い。やっぱり空き家なのか、それとも留守なのだろうか。
「おにいさん。きのう、こうえんでレーナさんにあっていますよね? そのこうえんに、いってみましょう」
「どうして知っているの? ……いや、まぁいいや。とにかく、行こうか」
再び麻理と莉紗ちゃんと手を繋ぎ、いつもの公園へ。
平日なので幼稚園児くらいの子供たちが制服のまま走り回り、その保護者であろう、幼稚園の鞄や水筒を持ったお母さん方が談笑している。
そして、一人ベンチに座って何かを待つ金髪の女の子――レーナちゃんが俺たちに気付き、駆け寄ってきた。
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