概要
彼は国中の書物を集め、全ての文字を収めた図書館の建造を熱望する。
そんな彼の計画に従事する司書が一人。
司書は「文字の霊」の本質を知り、やがて王の過ちに気付く。
・ 全4話
・ 1話あたり約2000文字
最古の図書館とも言われる「アッシュールバニパルの図書館」を舞台にした短編。
文字が残せるものとは何か。そんなテーマでお送りします。
なお、中島敦の『文字禍』が下敷きとなっております。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!文字とは何ぞや不滅とは何ぞや
人類最大の発明である文字についての考察を、古代の司書に仮託して論じたお話。
他者に対し共通の認識を与える存在でありながら、川と河の間に宿る些細な差のように、そこからは幾らかの情報量が喪失されている。
しかしながら、その文字が象るモノ、発音には、確かに全ての人類に等しく受け入れられる、共通知が宿っている。
文字とはなんなのか。
現代、人類の知識は0と1のパターンや三角関数の波形によって置き換えられようとしている。その方向性と同じく、文字という発明もまた、余計なものをそぎ落とし、本質的な何かを抉り出そうとする、人類の壮大な取り組みだったのかもしれない。
故に抉り出された文字はき…続きを読む - ★★★ Excellent!!!文字の羅列が特定の意味を持つには共通認識が不可欠である
文字は発明だ。歴史を後世に残すためにも、軍の伝令として使うにも、知識を同胞へ伝えるにも、文字がないと正確性にかけてしまう。口伝という形では情報の伝達に限度があった。なぜなら言葉の発信者と受信者が持っている主観によって受け取る情報が左右されてしまうからである。
そこでこの物語が登場してくる。文字には霊が宿るというテーマだ。アッシリアという古代文明が舞台であり、粘土板によって文字を描写していた時代の話になる。
物語の視点人物は、老人のくしゃみに注目した。くしゃみという名詞には「鼻から飛沫を飛ばして身体を大きくのけぞらせる」という動作が圧縮されていることに衝撃を受けるわけだ。
現代風にいうな…続きを読む - ★★★ Excellent!!!言葉の美しい響き
人は必ず死にます。
親や友人が死に、自分が死に、子孫もやがて死にます。
死にはしなくとも、病気や怪我で継続的な精神活動、則ち自己や自我はいつ変質、消滅しても可笑しくはありません。
自己は有限です。それはどんな人間にとっても恐ろしく絶対的なモノです。
死から一切目を逸らさずに見つめ続けている状態で健全な自己は形成出来きず、多くに人は己の命が子孫に受け継がれる事、己の生きた証となる作品や偉業に慰めを求め憧れを抱きます。或いは、次なる転生や極楽浄土へ召し上げられる希望で死への虚無を塗り潰します。
文字による記録は個々の媒体の耐久性に左右されるとはいえ、言語自体の意味の永続性は確固たるモノに感じられ…続きを読む