8万字なんですけど、一気読みしちゃいました。目がショボショボする初老の私には珍しい現象です。
水戸黄門とか遠山の金さんみたいに安心して読めるんです。ハッピーエンドを裏切るはずが無いよね、と言う安心感。
こう書くと「マンネリのワンパターン物か?」と勘繰りますよね。例えを変えましょう。映画「高速参勤交代」。あれも、先は全く読めないけど、絶対にハッピーエンドだよな、と思いながら観ませんでしたか?
あれと同じです。テンポ良く、物語が展開して行きます。
考えてみると、時代小説って、読者を裏切らない要素が揃ってますね。ロミオとジュリエットの如き殿と姫。御家騒動。腹心の部下と忍者。幕府に対する防諜。
そんな安心できる世界に埋もれたいと願う疲れた時には、是非、読んで下さい。
主人公の美緒は武家の娘。藩屋敷で働いていた彼女はある日江戸屋敷行きを命じられた。果たしてそこで待っていたのは、首が落ちるようだと武士が忌み嫌う「椿」の名を自ら名乗る不可思議な男だった……という感じで始まる時代小説なわけですが。
屋敷に閉じ込められた椿の世話をする美緒は気づくのです。椿が狂人を演じていることに。
気づかれた椿は少しずつ美緒に心を許していきます。
その様が実にキュートなんですよねぇ。男性なのに姫君キャラと言いますか。
そして、そんな人が実に難しいお家の事情の渦中にいることを美緒は知って、覚悟していくわけです。自分がどう生きるかを。ここで感心するのは美緒が女剣士でも軍略家でもない、ただの女子ってことです。
キャラ設定じゃなく、キャラの心情の動きを見せてくれる展開に、ぐぐっと引き込まれずにはいられませんよ!
芯の太い物語と、姫な若様との恋愛劇。両方味わえる一作です。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=髙橋 剛)
歴史物は好きなのですが恋愛ものには全く疎く、作者さんを多少知っていることと、いいタイトルだな、と思ったことが読んだ動機でした。
しかし読み始めてみると止まらない。江戸の描写や落ち着きのある文体、惹きつける設定にヒロインの快活なキャラクターなど、様々な要素がそれぞれに良かったです。最初は謎めいていた椿が徐々にどんな相手かわかっていく展開も丁寧で引き込まれました。
そして、それ以上に良かったのがこの時代の一夫多妻、居住地などの制度やそこに起因する嫉妬や差別でした。この手のジャンルではそれらのテーマは定番なのかもしれませんが、作者の緻密で生き生きとした表現のおかげで、それを存分に理解し、共感することができました。
悪役である武虎は特に好きで、もちろん話の性質上、良い人物としては描かれないのですが、人間らしさを感じる良い配役だなと思いました。物語をぐっと引き締めるこういう悪役は大事ですね。
こういう自分にない感性から生まれる作品に触れられるのは本当に嬉しいです。ありがとうございました!
恋愛小説コンテストの最終選考結果から作品を見つけ、普段は女性向け恋愛小説も時代小説もあまり読まないのですが、タイトル誘われて開きいつの間にか読み終えてしまいました。
物語は藩屋敷に奉公する武士の娘、美緒が江戸に行けと命ぜられたところから始まります。正室が亡くなったことにより側室から正室に上がった藩主の妻・津也が命じたのは「頭が狂った」として離れの建屋に隔離にされている少年・椿の世話。椿と心通わせるうちに美緒は彼の頭が狂ってはいないことに気づき、やがて津也の息子である武虎と亡き正室の息子である文虎の家督騒動に巻き込まれ……というストーリーです。
普段読まないジャンルの作品を一気に読ませてくれたリーダビリティを支えているのは、登場するキャラクターの生き生きとした描写です。特に最も心惹かれたのは主人公の美緒でした。勝ち気で、芯が通っていて、意外に機転も利く。己にも他人にも正直な彼女の生き様は凛として咲く花の如く彼女に纏わる人々を魅了し、そして読み手をも魅了します。僕のこの手の恋愛小説は「やたらあちこちから好かれるヒロイン」に説得力を持たせることが最大の関門だと思っているのですが、溌剌と魅力的に綴られた美緒というキャラクターがその難関を見事にクリアしていると感じました。
そして本作において個人的に素晴らしいと感じたのが「悪役」との向き合い方。僕が女性向けの恋愛小説で読んでいてよく引っかかる点は主に二つ。一つが前述の「理由もなくモテまくるヒロイン」。そしてもう一つは「記号化した悪役」です。
悪役にも道徳心がある以上、それに反する行動を起こすまでには葛藤や焦燥があるはずです。しかし愛憎劇を主舞台とする恋愛小説においてその憎悪の過程が見えず、悪役が「悪いことをする舞台装置」になってしまっているパターンによく遭遇しました。しかしこの作品はそうではなかった。物語も佳境に迫った頃、作者様は作品に「悪役視点」のエピソードを挿入してきます。
これは驚きました。人として書きすぎれば同情を集めて主人公側への感情移入を阻害し、悪として書きすれば「なんだこのサイコパスは」と物語への敬遠を生む。そういう扱いの難しい、よほどの筆力がない限り触れない方が良いエピソードを、作者様は見事に書き切っています。そしてそれが物語に確かな厚みを与えている。
僕は本作で美緒の次にこの「悪役」が好きです。善が好きなら悪は嫌い。悪が好きなら善は嫌い。普通はそうなりがちな中、「善の代表」の次に「悪の代表」が好きと読み手に思わせることが出来る筆致のバランス感覚は、本当に稀有なものだと感じました。
女性向け恋愛小説かつ時代小説と、ジャンルが対象として想定する層は決して広くない作品だと思うのですが、それだけで敬遠して欲しくない良作です。男性も、時代小説を読まない方も、是非ご一読下さい。
時代物とくれば、少々お堅いイメージを与えるかもしれませんが、読み始めてすぐ文章に入っていけるほど軽快な作品です。
ストーリー冒頭、ヒロインが王子様(いや、江戸時代だからお殿様?)と出会う様はまさに恋愛小説の王道と思わせてくれます。
ライバルの登場や恋の思惑だけでなく、彼らを取り巻くお家のしがらみから展開する物語に、最後までわくわくさせられました。
どこまで時代考証をするか、となると、評価の分かれ目になるのかもしれません。
ここが時代小説の難しさとも考えます。
身分違いの所作や立ち振る舞い、このような会話や口調がはたして許されるかどうか。その時代に合っているか。
ただ、恋愛を主題に置いたとき、それは取るに足りない部分かと。そもそもが現代に生きる我々が読む作品であるのだから、理解と面白さを優先させるべきでしょう。私は歴史学者でもないのだし。
思わず、下手くそな一句を書いてしまうほど、江戸に花咲く恋模様、楽しく読ませて頂きました、ありがとうございます。
江戸時代中期、徳川幕府治下の武家社会は、
日の本の史上に類を見ぬほど落ち着いている。
そんなころ、江戸に程近い東海道の一藩に
お家騒動の暗雲が立ち込めた。
気狂いを起こした嫡子と、側室上がりの女の息子。
跡目相続は母親同士の対立構図にとどまらず。
ここに来て火の点いた息子同士の争いの種は、
気が強くて少々手の早い下級武士の娘、美緒だった。
国許から江戸に上がった美緒の視点で物語は進む。
椿と名乗る少年の正体に気付き、
椿という名に隠された秘密を知り、
御方様に仕える『網』に近付き、
と、テンポよくライトに紐解かれるストーリーに、
次のページをクリックする手が止まらなかった。
惜しむらくは、8万字というサイズであること。
椿の狂態と文虎の葛藤、その対比をもっと読んでみたかった。
母たちの確執や武虎の愚直さがもっと強く描かれていたなら、
決着に当たっての2人の息子たちの覚悟がより映えたと思う。
生意気を申し上げて御免なさい。
すごく好きな題材だから、もっと欲しいと思った。
美緒と彼らの恋と忠心と家族愛の物語に
もっと長く浸っていたかったのです。
椿の花のごとく死ね。
それは呪いか、はたまた誇りか。
覚悟を決めた武士の生きざまは美しい。
文に生きる世の、刀に恃まぬ武士でさえ、なお。
主人公である美緒は、江戸に行けという命令に従って、江戸へと向かう。そこで会った大久保滋虎の妻、津也に“離れにいる男の世話をしてくれ”と言われるが……。
中にいる人間が出てこないようにするための鍵――。
老若男女問わず、三日ももたずに根を上げた――。
中にいるのは狂人。
いやぁ、一体どんな男なのかと読み進めてドキドキしました(>_<)
しかし描写から読み取れるのは中性的な優男という感じで、ほっと胸を撫で下ろす。
武士なら厭うだろう花――『椿』の名で呼んでくれという男は、なんとも子供っぽいが、今後美緒との関係はどう発展していくのだろうか。
『恋愛ジャンル』である以上、恋へと発展していくのだろうが、その過程がとっても楽しみな一作です。
江戸で繰り広げられる恋愛模様を皆さまも是非っ(⌒∇⌒)