時代の中に生まれる恋愛描写が秀逸

歴史物は好きなのですが恋愛ものには全く疎く、作者さんを多少知っていることと、いいタイトルだな、と思ったことが読んだ動機でした。

しかし読み始めてみると止まらない。江戸の描写や落ち着きのある文体、惹きつける設定にヒロインの快活なキャラクターなど、様々な要素がそれぞれに良かったです。最初は謎めいていた椿が徐々にどんな相手かわかっていく展開も丁寧で引き込まれました。

そして、それ以上に良かったのがこの時代の一夫多妻、居住地などの制度やそこに起因する嫉妬や差別でした。この手のジャンルではそれらのテーマは定番なのかもしれませんが、作者の緻密で生き生きとした表現のおかげで、それを存分に理解し、共感することができました。

悪役である武虎は特に好きで、もちろん話の性質上、良い人物としては描かれないのですが、人間らしさを感じる良い配役だなと思いました。物語をぐっと引き締めるこういう悪役は大事ですね。

こういう自分にない感性から生まれる作品に触れられるのは本当に嬉しいです。ありがとうございました!

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