26 コンサル飲みには大きな傾向が
「じゃあ、結婚を祝してカンパーイ!」
ジョッキが割れるほどの勢いで生中をぶつけ合う。仄暗い日本酒居酒屋の半個室で、小金色の液体がより輝いて見えた。
忘年会シーズンに突入する直前の11月末の金曜日。仲の良い同期の男3人で飲み。
目の前の川本は、相変わらずワックスできっちり固めた髪にストライプが目立つネイビーのスーツ。YシャツのカフスボタンはトランプのハートのA。雑誌から飛び出してきたような出で立ちだ。
今日はコイツの結婚祝いということで、そりゃあ酒を煽るしかないでしょうよ。
「くうぅぅ! 仕事を切り上げて早くから飲む酒ってのは最高の贅沢だ」
「シュージ、21時は普通の会社だともう2次会だからな」
コンサル飲みの傾向① 仕事の都合で開始が遅い。
「で、詳しい話聞きたいのに永井が来ません、と……。川本の方に連絡来てる?」
「んっとね……あ、『今オフィス出た』ってショートメッセージ来たぞ。ナガイさんのプロジェクト、相変わらず忙しそうだ」
コンサル飲みの傾向② それでも遅れるヤツがいる。しかも連絡がルーズ。
「うっす、悪い悪い」
少しして、永井が到着した。見た目は濃いグレーのスーツ、爽やかな印象だけど、自作PCなんかについて語らせると止まらなくなるタイプ。いつもネタ記事をシェアしてくれる、アンテナ敏感なオタク仲間。
アンバランスにも見えるこの3人だけど何故か馬が合うので、時折誰からともなく誘いが来ては飲んでいる。
「では、改めて結婚を祝して、カンパーイ!」
早々と2杯の生中を胃に収め、そのまま川本の結婚話に花が咲く。
「まあまだ入籍しただけだからさ。式の準備とかはこれからだよ」
合コンきっかけで付き合った馴れ初めだの、多忙なせいで一時険悪になった件だのは定期的に酒の席で聞いてるので、話が早い。
「式の準備か。じゃあスケジュール表作らないとだな、川本」
「いやいやナガイさん、『ゼクシス』買えばそういうシートがついてくるんだって」
「ダメだよそれじゃ。タスクの進捗管理までは出来ないだろ」
コンサル飲みの傾向③ 酒が入るとネタの一環で、ライフイベントも通常業務に置き換わる。
「永井、お前毒されすぎだぞ」
「そうそう、オンオフで切り替えしないと」
コンサル飲みの傾向④ 始めはそういうコンサル脳にツッコミを入れる。
「でも川本、俺は課題管理表は必要だと思う。トラブルがつきものって言うし」
「ナイス、柊司。そうそう、奥さんにも『僕はこの問題は忘れてませんからね。いつか解決する気でいますからね』っていう姿勢を見せるのが大事だろ」
「確かにな。解決期限設定しないと仕事と並行して進めるの難しいよな」
コンサル飲みの傾向⑤ でも朱に交われば赤くなってネタ合戦が始まる。
「あとさ、式場選びってどういう観点で選定するの?」
「やめろよその言葉」
川本が永井に向かって苦笑いを見せつつ、運ばれてきた日本酒の徳利から3つのお猪口に注ぐ。そうだそうだ、晴れ舞台の話をするのに「観点」とか「選定」とか使うもんじゃありません。
「まあうちの両親が神奈川で相手が千葉だから、場所は東京のつもりなんだけどね。どっちも田舎だから立地は重要かなあ。あと知名度とか? 婆ちゃんとかも知ってるところだといいな」
「帝国ホテルとかな」
「高いけどな」
なるほどな。確かに外資のホテルとかで挙げても、年長者は良さが分からないのか。重要な観点だな。おい、観点って
「それさ、ちゃんと比較表作った方が良くない? なあ、柊司」
「そうかもね。評価項目と点数定義作って。重要な項目は点数ウェイト高くして」
コンサル飲みの傾向⑥ 酒が進んでくると、とにかく表にしたい。
「あのなシュージ。別に点数で最後決めるわけじゃないだろ」
「そりゃそうだよ。『色々マイナスはあるけどここが良い!』って決め手みたいなものがあるだろうから、最後はそれで決めればいいけど、先に条件を見える化しておけば参考にはなるだろ」
コンサル飲みの傾向⑦ 酒が進んでくると、とにかく可視化したい。
「よし、じゃあ比較表を作成するってことで、3分の2の賛成を得て可決!」
永井の宣言に拍手してお猪口で乾杯。バカの集まりだ。
「それを川本が作ってくれれば、俺達も使えるもんな」
「そうそう、これが標準化ってヤツですよ。あ、日本酒無くなった」
「じゃあ俺頼むよ。スッキリ系でいいか? 石川の
「これさ、『ぐるめなび』で予約してるんだろ? いずれ電子メニューとか導入されたらさ、過去に来店したときの注文履歴からオススメの日本酒や肴が表示されるようになったら面白くない?」
「あ、いいねそれ! ビッグデータでリピーター獲得か。でもそのためには日本酒が幾つかの軸で数値化されてないといけないよな」
「日本酒度と酸度でいけるかなあ。あるいは店側で傾向分類しちゃえば……」
バカ話は果てしなく続く。
コンサル飲みの傾向⑧ こういう話が最高に楽しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます