第21話 魔力センサー→お風呂乱入
その日の放課後、俺は1人で買物に出かけた。
部屋着のジャージと、もろもろの生活必需品をいろいろと揃えるためだ。
ひと通り買物を済ませて寮に帰るころには、夕方になっていた。
女子寮に入って、自分の部屋の前まで来る。
この建物、最新のセキュリティが搭載されているらしく、各部屋に入るときにはすでに登録されている本人でないとカギを開けられない仕様になっているのだとか。
俺はさっそく、ドアの横にあるセンサーに手をかざす。
こうすることで開閉ができるのだとリーゼロッテが言っていた。
ところが――ドアに反応はない。
おかしいな。
今朝リーゼロッテが手をかざしたときは、カギがかかる音がしたのに。
よく見ると、センサーの脇には小さく「magic sensor」という文字があった。
えっと……つまり俺には魔力がないから反応しないってことか?
仕方ない、インターフォンを押してリーゼロッテに中から開けてもらおう。
……と思ったのだが、試しにドアを開けてみたらカギがかかっていなかった。
リーゼロッテが帰ってきたときにかけ忘れたのだろうか。
中に入るとリーゼロッテがいた。
俺には気づかず、昨日までは置いてなかった姿見の前に立って、ジッと自分の全身を見ていた。
……ん? いったい何をやってるんだ?。
彼女の格好は外行きの女性服。
何だあいつ、ドテラ以外の服も持ってたんだな……と思っていたら、あれは俺が気合い入れて買った服じゃないか。そう思った矢先のこと。
リーゼロッテが、鏡の前でいきなりポーズを決める。
ファッションモデルのようにキリッとしたポーズ、アイドルのようにかわいらしいポーズ、グラビアのようにセクシーなポーズ……もう1回。さらにもう1回と続いていく。
「――ぷっ、くくくくくく……っ!」
思わず笑ってしまう俺。
「え……っ? ちょ、ちょっと! 何でアヤメが帰ってきてるのおおおおっ!?」
慌てたリーゼロッテが、自分の格好を隠すようにしゃがみこむ。
床には俺の他の服も落ちていた。
ずっと1人ファッションショーをしていたらしい。
「どうして!? 解錠の音が聞こえたら急いで片づけようと思ってたのに!!」
「いや、そもそもカギかかってなかったぞ」
「そんなっ!? ――あ、そういえばかけ忘れたかも。ううっ、あたしのばかぁああ」
リーゼロッテは涙目になっていた。
つーか、解除の音聞いてからだと、どのみち間に合わなかったと思うぞ。
そうまでしてでも、かわいい服を着てみたかったのかよ……。
「欲しいならそれ、あげるよ。どうせ私はあんまり着ないだろうし」
「――はあっ!? べ、別に欲しくなんてないわよ、こんな服なんか!」
「そうなのか? うーん、そりゃ残念だ」
「……何でよ?」
「いや、私なんかよりずっと似合ってたから」
「え……、本当に?」
「うん、まあ……」
正直なところ、すごくかわいいと思った。
しかも楽しそうにその服を着ているリーゼロッテの顔は、見ていた俺も楽しくなるほどで、本当にいい笑顔だと思った。
「に、似合うわけないでしょ! だいたいアヤメの胸のサイズじゃ、あたしのパッド詰めたら窮屈になっちゃうから外じゃ着られないし!」
いきなりリーゼロッテが脱ぎ出す。
うわ、下着見えちゃう……と思ったら、俺の顔めがけて服を投げつけてきた。
しかも床に置いてあったものまで全部、次々と。
「えい、えい、このっ! とりゃあ!」
「うわ、ちょっとやめろよ――ぶふっ!」
服を投げ終えたリーゼロッテは、ベッドの1階部分を乗り越えると、隠れているようでまったく隠れていない自室へと行ってしまった。
「アヤメ、お風呂わいてるから先に入ってきなさい!」
「……わかったよ。そうさせてもらう」
俺が風呂に入ってるうちに、リーゼロッテも少しは落ち着くだろう。
脱衣所のドアを閉め、服を脱ごうとする俺。
ところが、そのときになって意識する。
これ……いきなりドア開けられたら終わりだよな?
今のリーゼロッテは当然コンタクトレンズを入れている。
ハダカを見られでもしたら、絶対に男だってバレてしまう。
俺はリーゼロッテに見られてないことを念入りに確認したあと、服を脱いだ。
予想以上の緊張。でもずっと風呂に入らないわけにもいかないし、脱衣所は常に警戒しておかないといけないな。
服を全部脱いだら、急いで風呂場に入る。
ここが、リーゼロッテがいつも使っているお風呂……いやいやいやっ!
俺はよからぬ考えを振り払って、浴槽のふたを開けた。
その瞬間、花の香りが風呂場中に広がる。
ピンク色に染まったお湯には、たくさんの花びらが浮かんでいた。
何だろう、これ……。
外からリーゼロッテの声が聞こえてくる。
「あ、言い忘れてたわ。リラックスできるようにピンクローズの入浴剤入れたの。あたしも後で入るし、もったいないから体流すときに浴槽のお湯は使っちゃダメだからね」
「へー、こりゃすごい。ありがとな!」
「お、お礼なんていらないわよ。あたしが入れたかっただけなんだから」
花びらが入ってる入浴剤なんて、すごい本格的だな!
入浴剤なんて使ったこともない俺は、テンションが上がっていた。
もしかしてリーゼロッテは、毎日こんな入浴剤を入れているのだろうか。
さすがは女の子だな、と思ってしまう。
リーゼロッテがこっちに来る気配はない。
いくら何でも、風呂の中をのぞきに来たりはしないだろう。
入浴剤の香りの効果もあって、俺は久々にリラックスすることができた。
俺はカツラを外した。
むれてかゆいので、早く頭を洗ってしまいたい。
シャワーでお湯を出そう。そう思ったのだがレバーが見当たらなかった。
近くにあるのはセンサーだけだ。
これはまさか……。
俺の不安は的中してしまった。
思った通り、近くに「magic sensor」と書いてある。
なるほど。
つまり玄関のカギと一緒で、俺には使えないと。
どうしよう。浴槽のお湯は使うなって言われたしな。
洗面所は普通にレバー式の蛇口だったというのに、何でこうも都合悪く風呂はセンサー式なんだよ。
「なあリーゼロッテ、シャワーが使えないんだけど!」
「近くにセンサーあるでしょう?」
「そうなんだけど、まったく反応しないんだ。えっと……実は外のカギも使えなくて」
「あーなるほど。アヤメの魔力は体内に働くから、外には放出されずセンサーも感知できないってことなのかもね。……わかったわ、ちょっと待ってなさい」
俺に魔力がないことは、リーゼロッテには言ってない。
何やら都合良くカン違いしてくれたようだ。
もしかしたら、センサーを解除する機能でもあるのだろうか。俺は言われたとおり、待っていることにした。
しばらく待っていると足音が近づいてくる。
そして――
いきなり風呂場の戸が開いた。
「アヤメ、お待たせ」
「え……? うわあああああっ!!」
いきなり来ると思ってなかった俺は、慌ててカツラをかぶると、自分の胸や下半身が見られないようにその場で丸まった。
だいじょうぶだろうか、俺が男だってこと、バレてないだろうか。
俺はそーっと、登場したリーゼロッテを見る。
リーゼロッテは、ハダカだった。
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