幕間

第27話 夜

 真夜中の、進路指導室。

 薄暗いこの場所に、ひとつの人影があった。

 その人物は、窓から夜空を疎ましく見上げると、口を開く。


「ンだよ。こンだけの魔力をためたってのに、まだ双頭が限界なのかよォ!」


 誰かに怒っているような、荒々しい口調だった。

 教室内には、他に誰もいないというのに。

 だが――これは独り言ではなかった。

 すぐに返事が返ってくる。


「あせってもいいことはないのだよ。優良な情報が手に入ってよかったじゃないか」


「あーあ、早く完全体の黒竜が呼べるようにならねェかな。そうすりゃとっとと人間どもに攻撃をしかけられるのによォ!」


「こらこら、本来の目的を忘れてはいけないのだよ」


「うっせェな! わかってんだよ、ンなことは!」


 この会話、お互いの口調は正反対と言ってもいい。

 だが、ひとつだけ不可解な点があった。


 それは――それぞれの声がまったく同じなのだ。


 声質や声の高さが、同一人物が発したとしか思えないほどに。


「とにかく、今後もあの3人は要チェックなのだよ。リーゼロッテ=アセスルファーム、春日沙也花、それに……和灯アヤメ」


「ったく、何でこのオレがガキの面倒なんか見なきゃいけねーんだ!」


「大変だと思うけど、よろしく頼むのだよ」


「ケッ、仕方ねェ。これも任務だからな」


 ここで会話が終了した。

 その人物は、進路指導室を後にする。

 そしてそのまま、校舎の奥へと消えていった。



 その後ろ姿は、背が小さい女性のものだった――


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