第15話 絶対双氷壁→決着

「沙也花ちゃん、私が接近戦で隙を作る! 後方からの援護は頼んだ!」


「うん!」


 春日が狙いをつけて、紅蓮の超砲光クリムゾンブラスターに魔力のチャージを始める。

 先ほどは俺1人だった。でも今は2人。

 押して押して押しまくれば、きっと一撃を与えられるはず。


 俺はリーゼロッテとの間合いを詰めると拳を連打。手数で勝負だ。

 リーゼロッテは盾を使いながら、ときに身をかわして俺の攻撃をふせいでいく。

 先ほどとは変わらない攻防のやり取りに見えるのだが、


「…………くっ」


 リーゼロッテが声をもらした。先ほどよりも表情に余裕がない。

 いつ春日に撃たれるかわからず、意識を分散させる必要があるからだろう。

 俺は手数を増やして、押して押して押しまくった。


 そして――ついにリーゼロッテが体勢を崩す。


 俺はそのチャンスを逃さず、回し蹴りを放った。

 リーゼロッテは急いで盾で防ごうとする。

 だが、これもまたフェイント。

 俺は蹴りを途中で止めると、リーゼロッテから離れた。


 そして春日に目をやる。

 春日はすでに、迎撃準備を整えていた。


「――お願いっ! 紅蓮の超砲光クリムゾンブラスターっ!」


 春日のかけ声とともに、うなりを上げたビーム砲が射出される。


「え……っ!? し、しまっ――!!」


 リーゼロッテは、すべての意識を俺の攻撃向けていた。

 今のリーゼロッテに、これを防ぐ手立てはない。

 しかしその直後、俺の目には信じられない光景が飛びこんできた。

 まるで何かに操られたように、リーゼロッテの左手がひとりでにビームの方へと動いていく。

 そしてあっさりと、春日のビームを盾で弾いていた。


 先ほどの防御と同じだ。

 リーゼロッテの意識は攻撃に対して確実に追いついていなかった。

 なのにまるで機械かと思うようなあの動き。

 もはや人間の反応速度を超えている。


 どんなにリーゼロッテの不意を突こうとも、攻撃は当たらないというのか。

 あまりのことに、俺は茫然としてしまった。


「嘘……」


 俺と同じように、春日もまた茫然としている。

 リーゼロッテが短く息をつくと、口を開いた。


「この盾はあたし専用の魔法アプリ、自動氷壁オートウォールズよ。これを起動させておくと、スマフォのセンサーが反応して勝手に盾を動かして守ってくれるの。そして自動で動くということは、こんな風にも使えるわ」


 リーゼロッテは左手から盾を外すと、地面に捨てる。

 すると盾はひとりでに起き上がり、宙に浮いてリーゼロッテの横に位置した。


「……マジかよ」


 ひとりでに盾が守ってくれるというのか。

 つまりリーゼロッテの意識を削ぐことに、意味はないのだ。


「つーか、ウォール『ズ』ってことはもしかして……」


「ええ、その通り。もう1枚出せるわ」


 リーゼロッテが魔力をこめると、盾がさらに出現した。

 それも宙に浮いて、すでにあった盾の逆側に位置する。

 そして、リーゼロッテは剣に魔力を注いでツーハンデッドソードのように大きくすると、両手で握って構えた。


「これがあたし本来のバトルフォーム――絶対双氷壁アブソリュートウォールズよ。もう諦めなさい」


「ふざけんな、勝負はこれからだろ」

「アヤメちゃんの言うとおりです」


 俺も春日も、決して諦めてはいなかった。

 だが……これといった打開策がないのも事実だ。


 リーゼロッテの戦法はまさに攻防一体。

 俺たちが攻撃をする間に、相手は攻撃と防御の両方をおこなうことができる。

 元々相手の方が一手多いのだから、こちらがどんなに手数を増やそうが差はついていく一方だ。あの盾を貫通する威力の攻撃をしかけられればいいのだが、春日のブラスター砲でさえ簡単に弾かれてしまう。


 あとは、あの盾の動きすら超えるスピードで攻撃できれば、あるいは……。


 2枚の盾は左右に位置している。正面はリーゼロッテが剣を振るのに邪魔になるからだろう、スペースが空いていた。

 そこに攻撃をしかければ、盾が動いて防御するのだろう。

 その盾が間に合わないスピードで、攻撃できれば……。

 だがそれだって無理だ。俺も春日も今まで全力で攻撃してきているのだ。それでも防がれているということは、あの盾の方が速いということに他ならない。


 こちらの武器は、俺の空手と春日の正確無比なレーザー射撃。

 ……どうする? 


「――――あ」


 思いついた……かも。


「沙也花ちゃん。あと1発、あのレーザー撃てる?」


「は、はい。だいじょうぶです。でも……簡単に防がれてしまいますよ?」


「うん、だから別の場所を狙ってほしいんだ」


 俺はひそひそと、春日に耳打ちをする。


「無駄なあがきはやめなさい。そっちが来ないなら、あたしから行くわよ」


 業を煮やしたリーゼロッテが、こちらに向かってくる。

 俺の耳打ちが終わると、春日が声を上げた。


「ええっ!? そ、そんなことしたらアヤメちゃんが――」


「いいから沙也花ちゃん、頼んだ!」


 俺はリーゼロッテを迎え撃つために、真っ向から走り出した。

 それを見て、リーゼロッテが歩みを止める。


「ふーん、結局今までと同じ攻め方なのね。だったら一撃で切り捨ててあげるわ」


 リーゼロッテが両手剣を振り上げた。

 盾は依然、左右に位置している。

 同時に春日が狙いをつけて、レーザーを射出した。


「――紅蓮の超砲光クリムゾンブラスターっ!」


「何度やったって無駄よ。絶対双氷壁アブソリュートウォールズにかかれば、あなたの攻撃は――――え?」


 リーゼロッテが目を丸くしている。

 それはそうだろう。

 春日のビームは、に着弾していた。


 この作戦は春日が俺を撃ち、その勢いで加速してリーゼロッテのふところに飛びこもうというものだ。

 成功する条件はたった1つ。

 俺が――春日のビームに耐えること。


 全身の骨が粉々に砕けそうなほどの衝撃が、俺の背中を襲う。


「ぐは……っ、ぐ、うおおおおおおおおおおおお――っ!!」


 耐えろ俺! 絶対に気を失うんじゃねーぞ!

 この魔法には、春日の想いがこめられてるんだからな!

 衝撃に吹っ飛ばされることで、俺はリーゼロッテに向かって加速した。


「――アヤメちゃん!」


 だいじょうぶだ春日。そんなに心配そうな声出すなって。

 リーゼロッテはこの俺の速度には反応できない。そして――左右の盾でさえも。

 俺はリーゼロッテの懐に飛びこみ、彼女の顔めがけて拳を突き出した。


 これで終わりだ!

 俺が勝利を確信したとき、リーゼロッテがギュッと目を閉じる。


「――――っ!?」


 それを見た俺は、殴るのをとっさにためらってしまった。

 拳を収めて体をひねると、リーゼロッテの脇を抜けて通り過ぎる。

 そして勢いを殺しきれず体から地面にぶつかると、数回バウンドして転がった。


「あ……アヤメちゃん!」


 遠くから駆けよってくる春日の悲鳴が聞こえた。

 ごめん春日。勝負……負けちまった。


「……何でよ」


 倒れたままの俺に、リーゼロッテが話しかけてくる。


「何でそんなボロボロになってまで、がんばろうとするのよ」


 そんなの、俺が男だからに決まってるだろ。

 女子のために体を張る。当たり前のことじゃねーか。

 でももう、俺には返事をする力さえ残っていなかった。


「何でやっと得たチャンスなのに、あたしを攻撃しなかったのよ」


 そんなの、俺が男だからに決まってるだろ。

 あんな怖がってる女子を、殴れるわけねえじゃねーか。




 そこで俺の意識は、プツリと途切れた。

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