第11話 挑戦→紅蓮の超砲光

「…………っ、……あ……、……かはっ」


「もっとも威力の高い攻撃と言ったはずよ。あなたのその武器なら、近距離攻撃の方が強かったはず。なのに遠距離でしかけたのは、あたしが怖かった? それともあたしに遠慮したのかしら? どちらにせよ戦闘中に全力を出せないなら、セントヴァルハラにはふさわしくないわ」


 リーゼロッテは、一気に氷の剣を引き抜いた。

 途端に31番の受験生から、大量の血が吹き出す。


「サキ!」


 知り合いなのか、別の受験生が1人、血相変えて駆けよった。

 31番の子は息を引き取るかのように倒れこむ。

 そして――

 全身が透明になっていくと、跡形もなく消えてしまった。


「あ……サキが! サキが……っ!」


「落ち着きなさい、死んだ訳じゃないわ。彼女はログアウトして現実の世界に戻っただけよ。戦闘不能になると自動で現実に戻されるシステムなの。もちろん向こうでは、無傷のままだから。今の刺し傷もなくなっているわ」


「そんな、でも……、サキが……」


 駆けよった子は、それでも納得ができない様子で涙を流していた。

 無理もない。いくら仮想空間ヴァーチャルだとはいえ、今の死は現実味がありすぎる。春日も他の生徒たちも、誰もが茫然としていた。

 だがそんなことは気にせず、リーゼロッテは話を進めていく。


「次は――受験番号32番」


「え――――」


 反応したのは、31番の子に駆けよった子だ。

 未だ、いくつもの涙が頬をつたっている。


「志望動機には『魔法の学者である父を尊敬していて、自分も魔法に関することにたずさわりたい』と書いてあるわね」


 32番の子はためらいながらも、おずおずとうなずく。


「じゃあ、あなたの魔法を見せて」


「…………っ」


 返事はせず、彼女はおそるおそる魔力を集め始めた。

 彼女の魔力は、大きな斧を形作っていく。

 しかし――その途中で消えてしまった。できかけていた斧は、形が崩れて消えてしまう。彼女はもう一度魔力を集めた。しかしふたたび生み出そうにも、揺らめいてしまったり透明になったりで安定しない。途中「サキ……、サキ……」と嗚咽混じりの声が聞こえてきた。魔法に集中できていないのだ。


「不合格。タイムオーバーよ」


 ズバッ。

 リーゼロッテが32番の子を袈裟斬りにする。

 彼女はそのまま倒れると、31番の子と同じように姿が消えていった。


「戦闘中は常に冷静でいること。じゃないと本当に死ぬわよ。――次、受験番号33番」


「ひ――っ」


 該当の生徒が、その場に座りこんで何度も首を横に振る。


「そ。じゃあ保留ね。次は34番…………そう、あなたも保留、と」


 34番の生徒も同じような状況だった。

 そして……35番、36番も。


「37番も保留。次、受験番号38番」


「――――はい」


 春日が返事をする。

 俺があまりにも心配そうな顔をしていたからだろう。

 春日が俺に向かって、笑顔を見せた。


「だいじょうぶですよアヤメちゃん。見ていてください、わたしの魔力武装マテリアを――」


「え……?」


 俺は不安だった。

 春日が使える魔法を、あの攻撃力皆無の、炎の球しか知らなかったから。

 でも春日の目は、強い輝きを放っている。


「38番、志望動機は『戦女神ヴァルキリーになりたいから』で間違いないわね」


「はい! わたしの魔法で、リーゼロッテさんや他の戦女神ヴァルキリーのみなさんの手助けがしたいんです!」


「……あなたの魔法を見せてみなさい」


 リーゼロッテの声を合図に、春日が目を閉じて集中力を高める。

 ルビーのように輝く赤い魔力が、大量に春日の手のもとへと集まってきた。

 ごうっと炎が燃えさかる音がした、その刹那――


 春日の両手には、巨大なバスターライフルが握られていた。


 砲身はゆうに持ち主の身長を超える長さ。

 通常のライフル銃よりも射出口が数倍広く、出力が桁違いであろうことは、見ただけでもわかる。


 まず普通の女子が持つことがないであろう重兵器を、春日は両手だけではなく全身を使って構えていた。

 春日……まさか、こんな魔法が使えるなんて。


「これがわたしの魔力武装マテリア紅蓮の超砲光クリムゾンブラスターです」


「そ。じゃあ最大火力であたしを撃ってみなさい」


「そのことなんですけど、リーゼロッテさんにお願いがあるんです」


「何かしら」


「できる限り高速で、上空を飛び回ってもらえませんか?」


 ざわ……。

 まわりで見ていた受験生たちが、ざわつき始める。

 それはそうだろう。31番の子を刺したとき、リーゼロッテの移動スピードは並のものではなかった。確か動画で飛んでいたときの彼女も、簡単に動きを追えるものではなかった。

 それを春日は、狙撃しようというのだろうか。


「基本、生徒同士の戦闘では飛翔フライングアプリは使用しないのだけど――わかったわ」


 リーゼロッテはが、小手のスマフォをいじる。

 何かしらのボタンを押すと、戦闘法衣バトルドレス全体に青い魔力が浸透していった。


 そしてリーゼロッテの体が、ふわりと浮く。

 またたく間に遥か上空へと上がっていったリーゼロッテの姿はすぐに小さくなり、まるで隼のような滑空を始める。


「さあ、存分に撃ってみなさい!」


「はい、行きます!」


 春日がリーゼロッテに向けて砲口を動かした。

 炎の魔力がうねりを上げて、バスターライフルへと集まっていく。

 小型のプロミネンスが、砲身の周囲に発生していた。


 しばらく狙いを定めていた春日だが、タイミングを測って――引き金を引いた。


「――えいっ!」


 かわいいかけ声とは裏腹に、高魔出力の火炎ビームが轟音を上げて射出された。

 狙いは正確。リーゼロッテに向かって一直線に向かっていく。


「――――っ!?」


 リーゼロッテの顔色が変わった。

 そして――命中。


「やった…………っ!」


 俺は思わず声を上げていた。

 他の受験生たちは、驚きのあまり声を失っている。


 しかし、次の瞬間――


 春日のビームは、あさっての方向に弾かれていた。

 弾かれたビームは、闘技場のはるか上空へと飛んでいく。

 いったい、何が起こったんだ?

 今のタイミングなら、確実にリーゼロッテに当たったと思ったのに。


 リーゼロッテは、まったくの無傷だった。

 そして彼女の左腕にはいつの間にか、氷でできた盾が装着されていた。

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