14話 記憶の行方

紗倉と佐々倉、レゲインは部室の座敷に上がり机を囲んで座った。

「春歌、マジで言わないで欲しいんだけどさ」

「だって口滑らしちゃったし」

「お前がな」

「言うなとも言われてなかったしね」

レゲインは説教を受けている子供のように足を崩さずしっかりと正座をして俯いていた。

紗倉が今までの事を佐々倉にすべて説明している間に頰を赤くして小さく膨らませていた。

「別に記憶喪失は恥ずかしい事じゃないですよ」

佐々倉は膨れているレゲインの頰を突っつく。レゲインは手を払って顔を背けた。

「顔真っ赤です」

「美羅ちゃん、やめてあげなよ」

また歳上に遊ばれているとレゲインはムッとした。

「あっ……」

レゲインが突然顔を上げたので二人は覗き込む。紗倉がどうしたのか聞くと、

「またって俺、思い出してないのに」

と頭の中で言ったことについて話す。

「レゲイン、頭の中で何話したの?」

「また……に遊ばれてるって」

一部モゴモゴとしていて二人には聞き取れなかった。

「いたの!」

二人が聞き返そうとした時、エベが壁をすり抜けて三人の前に姿を現した。

「学校中探したの、能力持った人に見られないようにしてたの」

エベを見た佐々倉は立ち上がり触れようとした。

「何ですかこの子! ふわふわしてます」

エベは触れることができないにも関わらず佐々倉から逃げ回った。流石に飛びつくことはできないだろうと思ったのか、考え事をしていたレゲインをすり抜けて逃げた。

レゲインは飛びかかった佐々倉に机に押し付けられた。

「うぐっ!? っ!」

佐々倉が退くとレゲインは立ち上がった。

「何してんだよ! この牛女が!」

「ごめんなさいね。ふふっ悪口も子供みたいですね」

頭を撫でられそうになったレゲインは掴めない筈のエベを前に出し触れない頭を撫でさせた。

佐々倉の手が頭を貫通したエベは涙目で青ざめていた。

「それで、エベ、何の用?」

「そ、それより、早くこの人の手を退けるの! 何でお兄ちゃん触れるの!?」

一旦落ち着き、それぞれが机の四辺に向かって座る。

「人形の説明がまだだったの」

「そりゃあ、お前居なかったからな」

紗倉がレゲインに同意するように頷く。

「持ってるの?」

エベに言われ、レゲインは鞄から人形を取り出し机の上に置く。

「これはエベが生前大切にしてたの。霊力も宿っててエベが中で休むものなの」

「この部屋に置いといていい?」

「ダメなの! エベの記憶とお兄ちゃんの記憶取り戻すためなの」

エベによると、レゲインが紗倉の上に落ちた日、鏡の向こうの狭間でも空間が開き光が飛び散ったらしい。それが記憶だと言う。

「見事に霊力の塊なの」

「食われてんじゃん。俺の記憶」

「この記憶を食べたシャドーマンは判定できないの。でも、大抵オグルになったシャドーマンは持ってるの」

「は? 何で分かるんだよ? てか、オグルって何?」

「オグルっていうのは、シャドーマンの強化版なの。全てが悪い奴ってわけでもないの」

レゲインはへーと軽く捉える。その様子を見る限り、異世界から来たというのも納得できてしまいそうだった。

「とりあえず、それを倒せばいいんだよね?」

「オグルって言ってもそうそう成れるシャドーマンなんていないの。オグルが原因で起きた怪奇現象を追えばいいの」

レゲインは机に頬杖をつく。

「この部はまさに打って付けって訳だ。えっと、美羅だっけ? なんか無いの?」

「いきなり呼び捨て!? しかも名前呼びって。本当に異世界人なんじゃないの?」

「昨日、蝙蝠ってこと認めたくせに。そっちは認めてなかったのかよ」

紗倉は口を尖らせる。

「どっちも認めてませんでしたよーだ」

それを見ていた佐々倉が紗倉を宥めた。そして、レゲインの方を見ていう。

「そうですね、噂なら一つありますよ」

「マジで?」

「はい、その場所に連れて行きますから、入部届け出してください」

罠だった。

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