第16話 オグルとの対面

トイレの手洗い場に設置してあった小さな鏡から紗倉達は裏世界へ入った。

「あの、何故学校でこっちの世界に入らなかったんですか? オグルというものの出現を待たなくても……」

エベは佐々倉に指を突きつけた。

「オグルが居ないとシャドーマンが大量発生するの! 危なすぎるの」

外へ出るとすすり泣く声がハッキリと聞こえる。シャドーマンの一匹すら居ない為かさらに不気味に聞こえる。

「居ても不気味だけどな」

「池の方からですね。声は」

女性の自殺した霊説が有力になってきている。池を見ると風も無いのに波打っていた。

「あ、お前らさ元の世界戻れよ」

「何でさ?」

「危ねぇからに決まってんだろ。お前ら俺みたいに戦えないし」

紗倉と佐々倉はジト目でレゲインを見た。

「記憶ないくせに。あの時戦えたのも偶然かもしれないじゃん」

「そうですね……エベさん、私にも武器使えますか?」

エベは訝しげに佐々倉を見て池の方に向かおうとしたレゲインの陰に隠れた。

「い、嫌なの! なんか嫌なの。武器使いたいなら別の人探すの!」

佐々倉はもの惜しそうに指を口元に持って行きエベを見た。エベは佐々倉に向かって舌を出して対抗する。

レゲインは物にも人にも触れられなかったはずのエベが自分の服を掴んでいるのを不思議そうに見ていた。すると、池の方から気配を感じ振り向いた。

「レゲイン、どうしたの?」

「池の方から……!」

レゲインは激しい頭痛を感じ頭を抑え屈みこんでしまった。

紗倉と佐々倉が心配して近寄ると池の水が盛り上がる。

「何あれ……ひ、人?」

「オグルなの」

大きな頭に長い髪、少し離れた場所から指の細い巨大な黒い手が上がって来たいた。

レゲインが頭を抑えながら顔を上げ、オグルの赤い目と目を合わせた。その瞬間、飛び出して来た長い髪に足を絡め取られ池の方は引っ張られた。

紗倉と佐々倉の二人は驚いて動くことができなかった。

レゲインはエベを呼び剣を握る。絡みついた髪を切ろうと振り上げた。

その途端、息苦しさを感じ剣を落とした。頭の中に流れ込んでくる女性の死に際の記憶に驚く。

放り出されたエベは元の姿に戻り紗倉の元へ行く。

「やばいの! お姉ちゃん、早く切り離さないと危ないの!」

「で、でも私……あんな風に戦えないよ」

「戦わなくていいの。切るだけなの」

紗倉が渋々頷くとエベは紗倉の手に触れ武器へ変化した。それは死神が持っていそうな形の大鎌だった。

「こ、これ……」

形には似合わずミルクレモン色をしている。

レゲインは苦しい中、片足に力を入れ全体重をかけて持ちこたえていた。今感じるのは女性の苦しみや悲しみと他人の感情が流れ込む不快感だった。

オグルは黒い手を伸ばしレゲインを掴もうとしていた。そこへ、紗倉が勢いよく飛び込み、髪の束を下からすくいあげるように鎌で切り離した。

レゲインは勢あまり芝生の上に出る。すると、周りから何本もの髪の束が迫って来た。

「レゲイン! 立って」

「……無理だ。もう囲まれて」

レゲインが諦めを見せた所へ、佐々倉が飛び込み武器になったエベを無理やり掴んだ。

佐々倉は刀へと姿を変えたエベを振り上げ髪の束を全て斬り捨てた。

紗倉とレゲインは目を丸くしてその光景を見ていた。

「早く逃げますよ!」

佐々倉に従って紗倉はレゲインを立たせて逃げようとした。が、レゲインは立ち上がると佐々倉の持っていた刀を奪い取り向かってくる手に向かい駆け出した。

刀は形を変え、二つの剣になる。

「戻ってください!」

二つの剣を使い腕を斬り落とし木の柵に足をかけて跳んだ。後ろから紗倉と佐々倉の悲鳴のような声が聞こえ振り返る。

二人は、髪の束に囲まれていたのだ。

レゲインは自分にも髪の束が向かってくるのを見て片方の剣を投げ、二人を囲んでいた髪を斬り裂いた。

助かった紗倉と佐々倉がレゲインを見ると足と胴を髪に掴まれ吊るされていた。

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