第18話 嫉妬の記憶

翌日、紗倉はレゲインの机にエベのぬいぐるみを乗せた。

「レゲインが頼まれたんだから持っててよ」

「……分かった」

レゲインはエベのぬいぐるみを鞄にしまうとその場から動こうとしない紗倉を見上げた。

「何?」

「何って、お前こそ何?」

「レゲイン、何か思い出した?」

レゲインは机に視線を落とししばらく黙り込んだ。

「何をしていたか、で、人だけが思い出せない」

「何をって全てじゃないんでしょ?」

「全て思い出せたらこんな手こずらない。人の記憶が別の可能性がある」

「人の記憶を食べたオグルってどんな過去を?」

オグルの姿を想像していると、佐々倉が登校してきた。紗倉の横に来ると嫌がる紗倉を抱きしめた。

「紗倉さん今日行く場所は決まってますか?」

「行く場所って……遊びに行ってるわけじゃないよ」

レゲインは賛同して頷く。


そして、放課後。

レゲインは昨日思い出した記憶について話した。

それは、自分の友達らしき人が自分に構う事が少なくなったという話だった。人の記憶が無いため、状況があまり把握できなかった。

「普通に嫉妬ですね」

「普通に過ぎてあんまり重要じゃないよね、レゲインも嫉妬するんだ……」

レゲインは取り戻した記憶を話した事を少し後悔し、鞄を抱え込んでいると顎に衝撃が加わり背後に倒れた。

「苦しいの! あれ? なんで倒れてるの?」

飛び出したエベにぶつかり一瞬意識が飛んだレゲインをエベが不思議そうに見下ろす。

「エベ、昨日言ってた男の子だっけ? どうすれば見つかるの?」

「エベには探索能力なんて無いの。その能力のある人、あるいは幽霊をあたるの」

「他には?」

「子供の悪霊の話を辿るの。他の二つより確率は下がるけど居れば確かなの」

倒れていたレゲインは起き上がり何故その子供を探すのかを聞いた。

「昨日見てた限り、エベだけじゃ力不足なの」

「別に、俺一人でなんとかできるだろ……これ以上っ」

座る場所を直し顔を上げるとムッとした顔でレゲインを見る紗倉と佐々倉が居たので断る事が出来なくなった。

「あっそ。じゃあその幽霊の噂あるの?」

「そうですね……最近入った噂ですか、待っててください」

佐々倉はそう言うとカラーボックスに入れられた資料を漁り始めた。

紗倉達三人はジッとその場で待って居たが、突然、部室の扉が開かれた。

「おい、そこの一年の編入生、ちょっと来い」

「俺?」

「そう、お前」

レゲインは紗倉と佐々倉と目で確認すると、怠そうに立ち上がって呼んだ生徒について行った。

「ねぇ、美羅ちゃん。今のって三年?」

「三年と二年ですね……どうしたんでしょう?」


レゲインは屋上へ連れて行かれ、二、三年生に囲まれていた。女子生徒が二人と男子生徒が四、五人、全員その辺にいそうな今時の高校生だ。大人しそうな見た目の生徒もいた。

「君、ここに進入した事あるよな?」

「あるけど、何? 何かの勧誘?」

「違う。まぁ、勧誘でも良いけど、お前は何かここで見なかったか? タバコとか」

「あぁ、見たけど……えっ! まさか皆んな吸ってんの!? マジで? やめとけよ、人間は寿命短いのに更に縮めてどうすんだよ。生きる意味も思いつかないよな……そこは分かるよ多分」

眼鏡を掛けた男子生徒の一人が目で確認をしレゲインに殴りかかった。レゲインは目の前に迫った拳に驚き横に身を逸らした。

「何すんだよ、いきなり」

男子生徒は驚きレゲインを確認する。その場にいた全員が驚いていた。

「えっ、何?」

男子生徒は更にレゲインに向かって拳を振る。レゲインはそれを全て避けるがその生徒の合図で他の生徒も向かってきた。

「おいって!」

一斉に向かってくるのを見たレゲインはその場から跳び一人の背中に手をつきバク転をして人の輪の外に着地した。

「ちょっとあんたさ、あいつの攻撃避けたのは凄えけど、攻撃しねぇじゃん」

「だって、喧嘩してるわけじゃないし。殴られたいなんて変わってるね」

「あんたねっ! 濡れ衣着せられるか、こっちに入るか、口止めさせられるか」

「タバコ吸ったら何かあるのか?」

「下手したら退学だから!」

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