第24話 兄の心配事

紗倉が朝早くに部室へ入ると、多幡と佐々倉が紙を広げていた。

「紗倉さん、おはよう」

「おお、佐倉おはよう」

二人に挨拶を返し、座敷に上がる。

「何してるの?」

「これでも一応立派な部活ですから、部員募集のポスターですよ」

佐々倉はそうだとしても、多幡はミミズ文字の書かれた紙を量産していた。

「お、オレはな、利き手が……そ、それでレポートを先生に書き直せと」

多幡の左手は腕ごと無くなってしまっている。こういう時に限って左利きだったのだ。

「先輩、ドンマイ」

紗倉はゆっくり書けばミミズ文字にはならないというアドバイスはしないでおいた。

「美羅ちゃん、レゲインは居ないの?」

「まだ来てませんよ?」

「えっ? でも、靴はあったよ?」

この学校の下駄箱は扉付きだ。

「紗倉さん、人の下駄箱の中身確認しているのですか?」

紗倉は顔を赤くして否定した。紗倉が見ているのは佐々倉とレゲインの下駄箱だけだ。

話していると背後から男子生徒が紗倉を呼んだ。

「紗倉」

振り向いた紗倉は当然の様に笑いかける男子生徒を見て首をかしげる。

「紗倉さん、いつから付き合い始めたんですか?」

「誰とも付き合ってないよ!!」

佐々倉に突っ込みを入れると同時にその栗色の髪をした男子生徒は紗倉に抱きついた。

「紗倉会いたかったよ。変な男に集られてるんじゃないかって僕は心配で心配で」

「あ、あのっ!」

紗倉が話を聞こうとした所にココアを飲みながら来たレゲインは、その光景を見るとココアの入った缶を落とした。

「レゲイン!?」

「何してんの。春歌」

その声に男子生徒は紗倉から離れ振り向いた。我に返ったレゲインが缶を拾い雑巾を取りに行こうと前に出た時、男子生徒は止まるように言った。

そして、紗倉の方を向き直る。

「紗倉。まさか、自分の兄の事を忘れたわけじゃないよね?」

「え。」

紗倉が分からなくても無理は無かった。紗倉の兄である咲良は紗倉が小学生に上がる頃に一人、別の小学生へ転向して行ってしまっており、最後に見た咲良の髪型や髪の色、身長や雰囲気とも違っていたのだから。

「確かに、お兄ちゃんの匂い……」

その紗倉の一言に時が止まった。


「佐倉に兄妹なんて居たんだな。っても、後輩でオレはそんな奴見たことないんだけど」

「僕は紗倉のことを聞いて昨日辺りに編入したばかりですから」

廊下にこぼしたココアの掃除を終えたレゲインも机の前に座るが、咲良と紗倉が机から離れた壁際に座っていることが気になった。

「私の事って?」

「心霊関連の部に入った話だよ。一応、母さんからはよく聞いてるからね」

「何かあるの?」

「何かも何も、紗倉自身知ってるよね? 家に誰か上げたよね?」

紗倉は思わず口を固く噤み首を振った。明らかな動揺を見せるので図星だという事は佐々倉と多幡でも分かった。

「それは、美羅じゃないよね? そこの先輩か金髪の子かな?」

「他の友達だよ。女の子」

嘘ではない。現にエベを家にあげたのだから。生きてはいないが。

「そう。でも、男子だけは絶対に上げないでね? 紗倉が卒業するまで僕も住むんだから」

紗倉は必死に頷いた。心から了承した事を表そうとしたのだ。

「それと、この部活だけは辞めて欲しい」

「でも、私は」

「あ、もう一つ。最近誰かに付けられたりしてない?」

してない。紗倉は小さな声でそう答えた。咲良はそれだけ聞くと壁沿いを歩き、部室から出て行った。

「春歌、何でんな端っこに座ってるの?」

「お兄ちゃんが、男性恐怖症だから。私は平気なんだけどね」

「男なのに? なんで?」

紗倉はその原因を知らず、気が付いたら咲良が男性恐怖症になっていた。

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