第21話 睦の能力
レゲインの目の前に虎の鼻先が突きつけられていた。
慌てて跳びのき近くに居たエベを武器として持つと逃げ出した。
「何でお前ら教えねぇんだよ!?」
「二人が遠くに行くことはないの。シャドーマンに囲まれるの、だから気にせずオグルを倒すの!」
レゲインは確かにと思い足にブレーキをかけたが、止まることができずつまづき目の前の塀に激突した。
「レゲイン!!」
「塀のブロックに埋もれましたよ!?」
レゲインが埋もれたのを見て心配して二人も足を止めた。それに気がついた睦も止まる。
塀の瓦礫を押し出しレゲインは這い出る。
「イッテェ……何が起きた?」
「分からないの。お兄ちゃんが突っ込んでっただけなの」
そこへ飛び掛かってきた虎を避け背後に転がった。そこから地面を蹴り虎に向かうが、虎ごと吹き飛び家に突っ込んだ。
「ぐっ……」
紗倉達が様子を見に来ると、瓦礫の奥で擦り傷だらけのレゲインと木などが突き刺さった虎が居た。
「くっそ……」
「早くとどめさすの!」
「分かってるよ」
軽く剣を振り下ろすと虎の頭が転がり黒い霧となり消えていく。すると、レゲインは頭に激しい痛みを感じ剣を落としその場にうずくまった。
「ぐっ……」
頭の中に映像が流れる。
それは冷たく暗い地下牢の中や白い精神病棟のような場所だった。
暗い地下牢の中には鉄の匂いが漂い冷たい床には血の跡が付いている。
「お母さん痛い、痛いよ……此処から出して。僕、ちゃんと言う通りにするから」
扉が開き紫色のドレスを着た母親らしき女性が入って着た。顔は分からない。
女性はその場に膝をつき抱き締めた。
「良かった。ごめんね、まだ早かったの。コントロールどころか憑依すらできないなんて」
優しく女性の手が頭に触れた。
レゲインが目を開けると星空の下でコンクリートの上に寝転がっていた。
「レゲイン、大丈夫?」
見ると紗倉からレゲインの方に腕が伸びており、額に手が当てられていた。
「俺、気絶してたのか?」
「寝てたんじゃないかな? 寝言言ってたし」
起き上がると手を退けられる。
「お前ら、どうやって俺を?」
「勿論、担いでですよ?」
「二人がかりでも力抜けた奴を運ぶなんて無理だろ」
「睦の能力が身体能力の向上でした。多分レゲインさんは、元から運動神経が良かったので倍になった力に追いつかなかったのでしょう」
レゲインは自分についた擦り傷を見て納得する。
「私の家の別荘が近くにあるのでそちらに行きましょう。明日は休みですしね」
レゲインと紗倉は仕方なくその別荘について行くことにした。
広い和風の屋敷の和室でレゲインは佐々倉と睦に押さえつけられ傷に消毒を塗られていた。
「やめろって! 痛えよ!」
「暴れるなら人を追加しますよ!」
佐々倉のその一言でレゲインはおとなしく力を抜いた。
頭の上にちょんと髪を束ねたゴムを直していた紗倉が聞いた。
「レゲイン、お母さんとか言ってたけどどんな夢見てたの?」
「夢っていうか記憶だよ。牢屋が多かったけど……」
「睦のオグルだから閉じ込められた記憶なんだ。もしかして虐待?」
「知らないよ」
レゲインの手当を終えると屋敷に居た使用人が夕食を運んで来た。紗倉は何度か佐々倉の家で食事をした事はあるがやはり食事の豪華さに驚く。
「和食って意外と量あるよね……」
レゲインは食べながら頷いた。それを見ていた紗倉はレゲインの食事への反応の薄さに驚いた。
「お前ら二人って、あの使用人にも見えてんの?」
エベは指を咥え首を左右に振った。睦はエベの様子を伺う。
「見えてたらボク達の分も用意されて無駄になるよ」
魂である者はレゲインや紗倉達の様に一度手を取った者か一定の霊力のある者にしか見えないのだ。
エベがそれに頷く。
言葉にできないほど羨ましかったのだ。
紗倉は刺身を掴みエベの前に差し出した。エベはかぶり付いたが、見事に頭をすり抜けた。
「お前、鬼だな」
「触れるから頑張れば食べれるかと」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます