第27話 心配してるの
紗倉が咲良と大きな傘に二人で入り、登校しようとしたところにレゲインと睦が来た。エベも黙って紗倉の後ろにいる。
「あ、レゲイン」
「……何で二人?」
傘が一本しかなかったからだ。咲良はこちらに帰ってくるとき、傘を持ってこなかった。
「おはよう、レゲイン」
「は? あ、おはよう」
「どうしたの? 浮かない顔して」
「いや、別に。早く行こ、学校遅れる」
紗倉を間に挟み歩く。レゲインが居る為、咲良は突然口数が減った。
紗倉がレゲインを気にして居るのに気を遣い睦が話した。
「誰かに付けられてる気がするらしいんだ。ボクは何も聞いてないんだけど」
「その前に、何で睦がお兄ちゃんといるなの?」
「エベだって、何で紗倉といるんだ?」
エベと睦は互いに答えようとしなかった。
「そういえば、レゲイン前から誰かに付けられてるって言ってたよね?」
「言ったけど……」
レゲインがその事について紗倉に話そうとすると咲良が二人の間に時計を出した。それを見たレゲインと紗倉は慌てて走り出した。
学校に付くと咲良は傘を片付けることを理由に紗倉を先に行かせ、レゲインを呼び止めた。
「なに?」
「後で話があるんだ。昼休みに一階の非常階段前に来てくれるかな?」
「……良いけど」
「っ!?」
レゲインが傘を傘立てにしまおうと咲良の方へ一歩踏み出すと、咲良は驚き傘を落として尻餅をついてしまった。
「大丈夫か?」
「ち、近づくな!!」
教室に普通に居られるかすら疑う程の怯え様だった。
その声を聞いて紗倉が戻って来た。何が起きたか理解し、レゲインと咲良の傘をしまうと咲良を立たさせ、レゲインと教室に向かった。
昼休み、レゲインが立ち上がると紗倉が呼び止めた。
「嫌な思いさせてごめんね」
「いいよ。忘れてた俺が悪いんだし」
「何処いくの?」
「別に」
レゲインについて行こうとしたが、佐々倉に呼び止められ行くことができなかった。
昼休みが終わってもレゲインは戻って来なかった。一緒にくっ付いていた睦も戻る気配は無い。
「美羅ちゃん、睦と話さなかったけど良かったの?」
「えっ? 睦居たんですか?」
レゲインに隠れて全く気がついていなかった様だった。
放課後、部室へ行きエベを多幡に見せていた。多幡は普通にエベを目で見る事ができ、佐々倉の様に避けられることは無かった。だが、雰囲気的に少し距離を置かれている。
「じゃあ、お兄ちゃんと少しお話でもしようか?」
エベは紗倉の後ろに隠れ、不気味な裏声を使う多幡を警戒していた。
「え、エベがお兄ちゃんって呼ぶのは金髪の方だけなの!」
すると、その金髪の方が部室へ入ってきた。頰にガーゼを当てている。
「レゲイン!? だ、大丈夫??」
心配して抱きつきそうな勢いで駆け寄って来た紗倉をレゲインは押さえる。
「軽い切り傷だから平気だって。大袈裟だな」
「何処に行ってたの?」
「別に」
レゲインの服を掴んで側にいた睦を見つけた多幡は近づき、触れようとして虚空を掴む。
紗倉が更にレゲインに質問を投げかけるが、レゲインは別にの一言しか答えない。
「佐々倉、しばらく睦借りるから」
「そうですか……じゃあ、これ、渡しておきますね」
佐々倉はレゲインに睦の首輪を渡した。
昨日とは違い、咲良からの呼び出しの無かった紗倉はレゲインと下校する事になった。佐々倉は多幡と部活の用事で学校に残った。
「レゲイン、本当に何処に行ってて、何があったの? 頰に切り傷ってそうそう付かないでしょ?」
「別に」
「転んだの?」
「違う」
「誰かにやられたの?」
「別に」
紗倉はそのあからさまな返答に黙った。家の前まで来た所で軽く手を振って帰って行こうとするレゲインの腕を掴んだ。
「なに?」
レゲインが振り返ると紗倉は両腕を掴んだ。
「別に別にって、ちゃんと答えてよ! こっちは心配してんだからさ!」
「……悪い」
「じゃあ、何があったの? 誰にやられたの?」
「呼ばれて、ちょっと口論になって俺の不注意で怪我しただけだから。それに、傷も大した事ないから」
疑う紗倉にレゲインはガーゼを少し剥がし傷を見せる。結構痛々しいものを平気だというレゲインが心配になる。
「な?」
「…………」
紗倉は睦の方を見て本当かどうか答えるのを待ったが、睦は何も言わなかった。仕方なく頷きエベと共にレゲインと睦を見送った。
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