第13話 人の気配
紗倉はレゲインの服を綺麗に修正し終え、本人に返そうとした。
「えっ……」
レゲインを見ると毛布を羽織りソファーにもたれかかって眠ってしまっていた。
ついさっきまで、好奇心を掻き立てられた紗倉が、服の匂いを嗅ごうとしている所を全力で止めに入っていたというのに。
それに関しての紗倉の言い分は、
「気になるじゃん、物とかの匂い。人ならまぁ、選ぶけどさ」
というものだった。
レゲインにとって、そういう問題ではないので一切顔色を変えることなくやめさせた。
起こすのも可哀想なので服をたたみ、レゲインのそばに置くき、シャワーを浴びて寝る事にした。
翌日、登校した二人は今朝の事について話していた。
「俺は本当に聞いたんだよ」
「私は聞こえなかったって」
すると、二人の前に復帰した佐々倉が立った。
「紗倉さん。もどりましたよ」
普段の柔らかい笑顔を二人に向ける。紗倉は心配そうにそれに答えた。
レゲインは顎に手を当てその様子を見ている。やけに膨よかな胸を。
一度、こんな人を見た事がある気がした。
「どうしたんですか?」
「え、べ、別に何でもないっ」
佐々倉に声を掛けられた事により、自分が何を凝視しているかに気がつき顔を逸らす。顔が赤い事は隠せなかった。
「美羅ちゃん、実はさ、朝の事なんだけど」
紗倉は登校時の事を話した。
紗倉には全く聞こえなかったが、レゲインには自分を呼ぶ男の声が聞こえたというのだ。それだけでなく、学校前まで人の視線を感じたと。
「ストーカーですか?」
「まさか、私もこの人も何の被害も受けてないよ?」
「こんなに可愛らしい人達ですよ、ストーカーをしたくなる気持ちも分かりますよ」
佐々倉はレゲインと紗倉の頭を撫でる。二人はその手を払った。
「男の声だったってんだろ、春歌の方だよ。撫でんな!」
「ヤケになる所、子供っぽくて可愛いです」
「同年代に子供扱いすんなよ! お前、変に色気あって絡みづらい」
佐々倉は少し嬉しそうに微笑んだ。
レゲインの声が意外と大きかったため、クラス中が静まり返りレゲイン達を見た。
「おい、春歌、俺変な事言ったか?」
「うん。見事に言ったね。色気とか普通言葉に出ないでしょ」
レゲインは未だに見て来る人に言った。
「いつまでこっち見てんだよ!」
不良と勘違いされてもおかしくはない。見ていたクラスメイトはヤバいというようにそれぞれ目を逸らした。
それを見たレゲインは、またやってしまったと机に伏せてしまった。
紗倉は慰めようもないので苦笑いをして見守る。
レゲインに誰も寄り付かないのがよく分かった。
「もしかして、知り合いの方が呼んだのではないのですか?」
「あ、それだよ、それなら反応できなくて当然だし」
「何故ですか?」
「記憶喪失だから」
「えっ!?」
佐々倉は驚いてレゲインを見るが、少し顔を上げたレゲインに何だよと言わんばかりに睨まれた。
「病院とか行きましたか?」
「美羅ちゃん、この話、放課後の部室じゃダメかな?」
「え? 構いませんよ」
紗倉の提案はレゲインが嫌がる事を配慮してのことだった。
放課後、佐々倉とは別に紗倉はレゲインと部室へ向かっていた。が、レゲインがお手洗い前で足を止めた。
「……どうしたの?」
「え? いや……別になんでもない」
紗倉は気にすることなく歩き出したが、レゲインは正直に聞くことができなかったのだ。その場所が何なのかを。
常識的にみんなが知っていら事まで忘れているなどあり得ないと思っていたからでもあった。
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