第11話 少女の名前

「腕、大丈夫?」

「軽く切っただけだ」

「見せてよ」

レゲインは紗倉の真剣な眼差しに仕方なく抑えていた手を退け傷を見せた。袖はバッサリと斬られて今にも千切れそうな状態だが、腕の傷は軽くとは言い難いものの思ったより浅く縫う必要はなさそうだった。

「あの先輩の二の舞になる気は無いし」

傷口に布を巻いていた紗倉はそっぽを向くレゲインを見てぎゅっと布で腕を締め付けた。

「いっ……き、きつい」

彼が締め付けられ顔をしかめるが、紗倉は細い腕と白い肌に見惚れていた。

腕が細いというのに何故アレだけ力があるのか不思議だ。

「二人ともこっちなの。この中にあるはずなの……」

少女の呼ぶ方へ行くと小さな教会が建っていた。庭は荒れて外見も少し廃墟っぽい。

「ねぇ、何で自分で探せないの?」

「ものに触れられないの」

「人形は箱か何かにはいってるの?」

少女は頷いた。

人形を探す為にレゲインは扉に手をかけるが鍵がかかっているのか開かない。

「鍵は?」

紗倉が聞くと少女は無いと答えた為、レゲインは扉を蹴り破った。

礼拝堂の中は荒れており、かなり埃っぽかった。

「春歌、お前も探してくれる?」

「いいよ、どの辺にありそうなの?」

少女は周りを見渡した。

「多分、この礼拝堂の中なの」

二人は手分けをして探し始める。少女は右往左往しながらそれぞれの手元を確認して人形が出てくるのを待っていた。

「所でさ、見つけた後、俺ら安全に帰れるの?」

「それは……そんな気がしたの。名前さえ取り戻せれば他の事も思い出せる気がしたの」

「……そう。俺の記憶と関係あるのか?」

「一応なの。あたしの記憶、奪われた時に聞いたの」

その言い方に引っかかった紗倉はすぐに聞き返した。

「その、奪われたって?」

少女が答えようとした時、レゲインが人形を見つけ持って来た。それは、何処か少女に似ていてウサギの耳が付いている。

「これなの! ありがとなの」

少女はその人形に触れた。すると人形が光り、その光が少女の体を包んだ。

「どうだ?」

「名前分かった?」

紗倉とレゲインが少女を見ていると少女を包んだ光が消える。

「……は、はいなの」

「んで、何思い出した?」

「エベはエグリーズ・エベなの。女の人が……ここに来てエベを見つけて追いかけて来たの。金髪の蝙蝠によろしくって言ってたの」

紗倉とレゲインは驚いて目を合わせる。二人ともあの本の内容が頭に浮かんでいた。

「俺がここに来ることを想定してってことだよな?」

「でも、金髪の突然変異した蝙蝠かもしれないよ? それに人が蝙蝠だなんて」

「金髪って時点で人型」

「人面蝙蝠?」

レゲインはいい加減認めない紗倉を呆れた目で見た。

すると突然、礼拝堂の入り口が大きく切り裂かれ崩れた。その方を見るとあの妖怪的なモノが立っていた。

「おい! ここ安全って!」

「エベにも分からないの! で、でも、今ならアレを倒す方法が分かるの!」

「じゃあ早くやれよ」

レゲインが倒すよう促すとエベは困ったように両手の人差し指を合わせる。

「え、エベ一人無理なの」

「じゃあどうすんだ?」

「信じてもらえないかもなの。でも、エベはアレを倒す武器なの」

とてもおかしな事をとても真剣に言うエベを見た二人は一度顔を見合わせた。

「春歌、戦闘とか」

「無理無理、現代人だよ? アニメでもないし……一番力あるのレゲインね、ガンバ」

紗倉はレゲインの肩に手を置き期待の眼差しを送る。

「こういう時だけ名前呼びして……!」

二人の間ギリギリに刀が振り下ろされた。二人が青ざめる中、それは二撃目、三撃目を振り上げていた。

レゲインと紗倉は慌ててその場から逃げる。

「分かった、やればいいんだろ!」

エベはそれに反応してレゲインの元へ攻撃を避けながら走った。レゲインは持っていた人形を紗倉に投げ渡す。

エベがレゲインの手に触れた瞬間、強く光り、形を変えた。

その途端、レゲインの上に二本の刀が振り下ろされた。

紗倉が息を呑む中、砂煙の間に刀を受け止めているレゲインが見えた。その手には鍔の代わりに輪っかが二つ浮いているような形状の剣がレゲインの両手に一本づつ握られていた。

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