第8話

「ひ、酷い目に、遭ったわ……」

「まあ……お前のおかげだ。よくやったぞ」

 未だ黒ずんだまま疲弊感たっぷりに呻くミネットを、ジンは苦笑と共に労っていた。

 どうやら像は、転んだ拍子に脱げて飛んだガラスの靴の落下攻撃を受け、壊れたらしい。

 おかげでジンとキュルは電気の流れなくなった水の上を悠々と通ることができた。もちろん、途中でミネットも回収したが。

「もう絶対やらないわよ、あんなこと……」

「もうないだろうから安心しろって、あんなこと」

 ぶつけられる不満を受け流す、ジン。『あんなこと』というのが罠のことか、それとも失敗のことを指すのかはさておき。

 ともかく電気部屋の奥には、案の定通路が伸びていた。

 その先にあったのは一つの部屋であり、そこが終点らしい。どうやら電気の罠は、その部屋への道を封じるために作られたようだったが――

「それにしても、どうしてこんなところを守ってたのかしら?」

 腑に落ちない様子のミネットに、ジンも同じ意見で頷いた。

 三人は部屋へと辿り着いたのだが、そこはまるで倉庫というか、物置のように思えた。

 広さは電気部屋の半分もない。しかもそこには雑多に棚が並び、いっそう窮屈にしている。棚の上にはやはり雑多に物が置かれているが、かといって目ぼしい物は何もなかった。

 そもそもあまり使われていなかったのか、大した数があるわけでもない。いっそ物置ではなく、埃置とでも言った方がいいかもしれないと、ジンは皮肉に考えたが。

 その中で数少ない、目を引いたものといえば――

「親分、親分! ほらこれ、いっぱいあったっすよ!」

 ランプをジンに預けたまま、キュルが両手から零れるほどの数の石細工を持ち、部屋の奥から喜び勇んで駆け戻ってくる。

 見てみればそれは全て、先ほど壊したものと同じ、一本角の怪物像だった。

 もちろん彼が素手で持てるほどなので、電気は流れていないようだが。

「これなら持ち運べるっすよね? お宝っすよね?」

「とうッ!」

 掛け声一閃。手刀一発で手首を叩き、その全てを落とさせたのはミネットだった。

 さらに彼女は「フシャー!」と鋭い息を吐き、像を自前のブーツで踏み砕いてみせる。

「あぁっ、な、何するんすかー!?」

「うっさい! こんなの絶対持っていかないわよ!」

(軽いトラウマになってんな……)

 嘆息しながら、ジンは改めてランプを掲げた。

(伝説によれば、『エクセリス』は八角形の星が描かれた宝石だって話だけど)

 一通り見回しても、それに類する物も見つけられない。この部屋にあるのは埃とガラクタと怪物像と、あとはその像の破片くらいのものだった。

「ここは外れだな。別の場所に行くか」

「えー。結局なんの収穫もなしっすか?」

「あたしの苦労はなんだったのよ……」

「大遺跡なんだから、そんなこともあるってもんだ。ほら、さっさと行くぞ」

 不満の声を背に聞きながら、ともかくジンは諦めず、大秘宝を目指して歩き出した。

(絶対に見つけてやる。そして今度は獣人共に、俺の苦しみをわからせてやる!)

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