飲み物(後)
昼休みは入学当初から、安息の時間の一つ。
先輩が来ていたのは、放課後ばかりだったから。
先輩のせいで、距離を置く人が増えた結果、弁当は一人で食べることになるんじゃないかと心配だったのだけれど、一人だけ変わらずにいてくれる子がいる。
私の目の前でおいしそうに弁当を食べている女の子が、ふと私に声をかけた。
「そういえば、放課後に来ていた男の人とこうちゃん付き合ってるの?」
「付き合ってないけど、生比奈さんどうしてそう思うの?」
「生比奈さんじゃなくて、ゆうちゃん」
「うん。ごめんね、生比奈さん」
「ゆうちゃん」
「ゆうちゃん、どうしてなの?」
すぐに距離を詰めてくる生比奈さんの事が、はじめはとても苦手だった。
だけれど、無邪気とも言える生比奈さんと仲がいい人は多く、邪険にも出来ず、気がついたら懐かれていた。
今では接し方がわかってきたので、一緒にいて苦ではないし、むしろクラスから孤立しなくて感謝している。
「こうちゃんって大人っぽいから、年上の人と付き合ってるのかなって。
あの人もよく来てたし、嫌よ嫌よも好きのうちって言うじゃない?」
「残念だけど、付き合ってないよ。
付きまとわれて怖かったし、嫌悪感しかなかったよ」
「でも今は?」
「だいっきらい」
生比奈さんが面白くなさそうに、「むぅ」と言いながら紙パック牛乳のストローを噛む。
私の手元には飲み物はなく、なにか飲みたいと思ったところで、ちょうどガラッと教室の扉が開いた。
現れた男子生徒が誰かを捜すように、きょろきょろ見回すので「こっちですよ」と手を振って知らせる。
なぜかため息をついて、先輩が教室に入ってきた。
「これでいいんでしょ?」
「ありがとうございました」
先輩から紙パックのお茶を受け取り、代金を渡す。
なにも言わずに教室から出ていく先輩を見送った後、生比奈さんが不思議そうな顔をして「二人はどういう関係なの?」と尋ねる。
答えに困った私は、しばらく黙ったままだった。
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