針の筵(先)


 友村に時間を作ってもらって、後輩をどうしたらいいのかを話し合った。


 とりあえず、僕がどうしたいのかを訊いてきた友村に、上下関係をわからせたいと言ったら「お前は加害者、彼女は被害者。上下をつけるなら、お前が下だ」と一蹴された。さすがに冗談だったのだけれど。


 友村曰く、あの少しずれたお嬢さんが、学校や警察に僕を突き出すことを忘れたわけではないらしい。


 ではなぜ、僕は今こうしていられるのか。それは後輩が吹奏楽部を慮っているからではないかということ。


 だから、吹奏楽部のほかの部員に説得してもらうのが、一番ではないかという結論に至った。


 だがあの後輩なら、僕を止めなかった吹奏楽部も一緒に恨むのではないだろうか。




 とはいえ、他にいい案も思いつかなかったので、次の部活の時に部員に事情を説明して、後輩を説得してもらおうとおもったのだけれど……。


「で、先堂君は部活勧誘にかこつけて、新入生をストーカーしていたと」


「かこつけては……」


「付け回してはいたんだよね?」


 今は部長含め、数人の部員に囲まれて、一人縮こまっている。


 悪気はなかったのだと説明はしたのだけれど、伝わらなかったらしい。


「悪気はなかったのはわかるけど、限度はあるわよ?


 アタシも先堂君が部を盛り上げたいっていう姿勢は知ってたからって、何も言わなかったのも悪いんだけれど」


「でも部長。僕は話をしていただけで……」


 この事実が保身と受け取られたのか、部長がキッとこちらをにらんだ。


「高校に入学して、まだ慣れてもいない一年生の女の子を、上級生のしかも男の子が追い掛け回したら怖いわよ。たとえ先堂君に悪気がなくても。


 毎日先生から追いかけられたら、先堂君だっていやでしょう?」


 部長のたとえが果たして適切なのか、判断できなかったけれど、針の筵のように刺さる数人からの視線に、僕はうなずくしかなかった。


「部のこともあるし、その一年生の子とは話し合うけど。


 間違っても先堂君が被害者だなんて思っちゃだめよ?」


 まるでこちらの考えを読むかのような部長の発言に気圧されて、僕はゆっくりとうなずいた。

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