呼び出し(後)
ここ数日、私は一人で学校を出る。今までも二日に一回は一人だったけれど、家までふらふらと歩いて帰る中で、いかにして先輩だけに復讐出来ないかと思案を巡らせていた。
手っ取り早くストーカーの件を訴えてしまいたいのだけれど、先輩は部活に所属しているから、部の活動停止や解散まであるかもしれない。特に今回は、過剰な勧誘活動が原因だから、可能性は高いと思う。
吹奏楽部に恨みがあるわけでは無いので、泣き寝入りするしかないのだろうか。
休み時間に雲を眺めつつ考えていたせいか、生比奈さんが「こうちゃん、こうちゃん」と私を呼んでいることに気がつかなかった。
「生比奈さんごめん、ぼーっとしてたよ」
「ゆうちゃん、です」
「それで、ゆうちゃんどうしたの?」
視線を生比奈さんに向けたところ、いつもと違うことに気がついた。
クスクスと笑っている女の子が、生比奈さんの隣にいる。
おさげに眼鏡のこの子はたしか、同じクラスの吹田奏さん。
吹田さんは私の視線に気がついたのか、あわてたように笑うのを止めた。そして、なぜか申し訳なさそうな顔をする。
「ふっきーがこうちゃんに話があるんだって」
「吹田さんが私に?」
大人しそうな吹田さんが、どんな話があるというのだろうか。
このクラスで私は、得体の知れない代表だと思うのだけれど。誰かさんのせいで。
吹田さんは、話しにくそうに「あの、あの」と繰り返し、ちらちらとこちらを見ている。
何だろう告白でもされるのだろうか、と益体無い事を考えていたら、吹田さんが意を決したように頭を下げた。
「放課後、音楽室に来てください」
吹田さんの声が大きかったせいもあって、周囲の視線がこちらに集まる。
注目されていることに気がついたのか、顔を上げた吹田さんは頬を真っ赤に染めて「お願いします」と続けた後、逃げるようにこの場を去っていった。
呆気にとられた私に、生比奈さんが「ふっきー、悪い子じゃないんだけどね。から回っちゃうことが多いんだ」と説明が入る。
今ので印象が悪くなることはないけれど、何で私は呼び出されたのだろうか。まさか本当に、告白とか?
気がつけば、周囲からの視線はなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます