平熱(後)

 今日はちょっと熱っぽかったのだけれど、微熱だったので学校に行くことにした。


 午前中の授業を終えての昼休み、私の席にやってきた生比奈さんが、じっと私を見つめる。


「生比奈さん、どうしたの?」


「ゆうちゃん。そんなことはどうでも良いから、保健室行くよ」


「保健室って、大丈夫だから」


 正直頭も痛くて、すぐにでも横になりたいけれど、生比奈さんに迷惑をかけたくなくて申し出を断る。


 少し怒った様子の生比奈さんは、有無を言わさぬ迫力で「スタンダップ」と私を立たせた。


 急に立ち上がったせいか、足下がふらつく。


「ほら、大丈夫じゃない。こうちゃん歩ける?」


「歩けるよ」


 足下はおぼつかないけど、なにかに掴まりながらだったら問題ない。


 でも、生比奈さんは私を支えるように、保健室まで連れて行った。




 保健室の先生に言って、一つのベッドを借り、ようやく横になる。


 頭がぐらぐらしていたのだけれど、横になれば倒れる心配もなければ、どこかに力を入れる必要もない。


「熱計ってね」


 生比奈さんは体温計を私に渡して、しきりのカーテンをシャッと閉めた。


 数分後ピピピと熱を計り終えた音がして、液晶を見たら『37.4℃』と表示されている。


「ほら、微熱だって。大丈夫だよ」


 音を聞きつけてカーテンを開けた生比奈さんに、体温計を返す。


 生比奈さんは体温計の後に、私を見た。


「こうちゃんの平熱は?」


「35度5分・・・・・・」


「普通の人なら、38度越えの高熱だよ?


 ゆっくり寝てなさい」


 言い残した生比奈さんが、保健室を出ていった後、先生がなんだか嬉しそうな顔で解熱剤を持ってきてくれた。

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