地獄(先)
地獄があるのなら、きっと今の事を言うのだと思う。
放課後は後輩にこき使われるか、以前に比べて居辛くなった部活でからかわれるかのどちらかだったが、今日部活に来たらなぜか後輩が部室で椅子に座っていた。
まだましだった部活の場に魔の手が伸びたのだと言ってもいい。
「なんで後輩がここにいるの?」
「先輩がサボっていないか見に来ただけです」
「ちゃんと来たんだから、帰っ……」
いつも通りの後輩に、いつも通りで返そうと思ったら、部員から白い目で見られていることに気が付いた。
思わず発言を止めたが、どうにも納得してもらえていないようで、本意に反して「せっかく来たんだから、ゆっくりしていけば」と絞り出す。
「後野さんはわたしが呼んだんですよ。指導してほしいって」
後輩の正面に座っていた吹田が、ネタバレでもするように話す。
後輩と仲良くしてほしいとは言ったけど、後輩を連れてこいとは言っていなかったと思う。
「でも、吹田と後輩じゃパート違っただろ」
「そうでもないみたいでね。後野さん、たぶんここにある楽器全部弾ける上に、結構上手なのよ。
アタシも気を抜いたら追い抜かされるじゃないかしら。
先堂君が部に入れたいっていうのもわかる気はするわね」
後ろか話に入ってきた部長の言葉に、今の状況を改めて確認してみる。
後輩が部室にいて、楽器を演奏している。
もしかして、これは僕が最初に望んでいた光景ではないだろうか。
友達を作るにしても、部活に入った方が楽だろうし、入学当初は嫌だったかもしれないが、今なら考えが変わっているかもしれない。
このまま、入部させることが出来たら、後輩からの呼び出しも減るだろうし、いつかはなくなるだろう。
あとは全てが僕の思っていた通りに行くわけだ。そうと決まれば、すぐに行動に移すしかない。
「そんなに楽器が弾けるなら、このままこの部に」
「入りませんよ」
こちらの言葉を、最後まで聞くことなく返ってくる拒絶に言葉を失う。
部長が余計なことを、と言わんばかりに頭を押さえている。
こうなることは予想できていたけど、こちらも必死なのだ。
「相変わらず先輩も懲りないですね。
今ので先輩ポイントマイナス10点です。
これで、残りポイントはマイナス700点としましょう」
「先輩ポイント?」
「私が先輩を見直したらプラス、先輩が私を落胆させたらマイナスで、ポイントがプラスになったら先輩を解放してあげます」
後輩から解放条件を出してくれたのは良かったが、後輩基準でポイントを付けるのだとしたら、こちらが圧倒的に不利ではないだろうか。
不公平感を口にしようとしたが、部長が「先堂君頑張ってね」というので、先輩ポイントの導入が決まった。
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