見直す

 夕暮れの公園。1組の男女がブランコを占領してアイスを食べていた。

 高校の制服を着ているため、歳のころにして15~18というところだろう。

 一緒に並んでいるにもかかわらず、二人の表情は全く違っている。


 女子生徒の方は純粋にアイスを楽しんでいるようで、男子生徒の方は恨みでもあるかのようにじっとアイスをにらんでいた。

 何かを決心したのか、男子生徒の方が「なあ」と声を出したところで、女子生徒の方の機嫌も悪くなる。


「なんですか先輩。私アイス食べてるんですけど」


「それは見ればわかるけどさ。せめて部活か何もない日かのどちらかにしてくれないかな」


「それは嫌です。先輩への復讐なんですから」


 急に機嫌よく男子生徒に笑顔を見せた女子生徒は、何かを考えるように視線を空に向ける。

 それから、面白いものでも見つけたかのような、子供っぽい表情で男子生徒に向き直った。


「吹奏楽部に行って思ったんですけど、先輩って意外と演奏上手いですよね」


「本当に!?」


 予想外とばかりに男子生徒が大きな声を上げる。

 それを見て満足したのか女子生徒は大きく左右に首を振った。


「いえ、嘘です。想像通りって感じでした。可もなく不可もなくです」


 男子生徒は怒った様子で何かを言いたそうに口をパクパクとさせていたが、何も発音することはなく、声の代わりにため息が漏れ出る。

 女子生徒は変わらない態度で続けた。


「私一つだけ先輩のことを見直してるんですよ」


「見直す……ねえ」


「一度もこうやって持ち上げなかったことです。

 たぶん、先輩が一度でも私のことをあきらめるそぶりを見せていたら、今よりも先輩のことを嫌いになっていました」


「今以上に嫌いになんてなれるものなの?」


「今以上に嫌いになったら、先輩は学校に居られなくなると思いますけど」


 女子生徒が「良かったですね」と笑いかけるのに対して、男子生徒は「そうだね」と返してから、ぼそっと「嫌いだ」と付け加えた。

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後輩と先輩 姫崎しう @himezakishiu

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