謝罪(後)

「ごめん、悪かった」


 放課後、先輩を連れまわしている途中で、いきなり先輩が謝ってきた。


 最初は今から用事があるから、先に帰るのかなと思ったのだけれど、だとしたら「悪かった」とは言わない。


 先輩が私に謝る理由としては、思い当たる節が多すぎて、見当がつかない。


「なにに対して謝っているんですか?」


「考えてみたら、付きまとっていた事に対して謝っていなかったと思って」


 軽々しくこんなことを言ってしまう先輩に、久しぶりにカチンと来た。


「そんなついでみたいに謝るんですね」


「え、あ。ごめん」


 しゅんと先輩が肩を落とすけれど、それで許す気は毛頭ない。


「先輩はなんで私が怒っているのか、わかっているんですか?」


「……僕が謝ったから……?」


 はっきりしない先輩の態度が、さらに私を苛立たせる。


「なんで、いま謝ったんですか?


 ふと思い出したから、ついでに謝ったんですか?


 私、謝ってどうにかなると思っているんですか、って言いましたよね?」


「言ったけど、だからって謝らない理由には……」


「なりませんよ。でも、謝るならあの時謝るべきだったと思いますけど」


 言葉を続ければ、続けるほど感情が抑えられなくなっていく。


 相手が先輩だから別に抑える必要は感じないけど、このまま先輩を攻め続けても気が鎮まるどころか、逆効果でしかないことに気が付いて、先輩に背を向けた。


「何か言い分はありますか? なければ帰ります」


 しばらく黙っていても、先輩の声が聞こえなかったので、一度大きなため息をついてから歩き出した。

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