第13話 徹底的にうぬぼれる。

 感想がもらえるということは、突然の贈り物のようなものだ。


 それまでは、うぬぼれて笑ってりゃEのさ。

 忌野清志郎ではないが、それにつきると思う。


 小説を書く人、音楽を作る人、絵を描くひと、あらゆる創作にかかわる人々にいちばん必要なのは、根拠のないうぬぼれなのではないか、と思う。


 頭ごなしに笑われるなら、まだマシなほうだ。

 徹底的に無視されることのほうがつらい。

 自分の作り出したものが、誰にも届かないのではないか、という不安。

 それは拭いがたいけれども、やはり、うぬぼれているしかない。


 

 わたしは大変なうぬぼれ屋だと思う。

 ひどい作品を書いては、恥知らずにもどや顔で公開してきた。

 しかしまあ、それは精神衛生上とてもいいことだ。

 創作というものは、自分で自分を肯定するための手段だと思っている。


 

 自分の作品に対して愛情がわかない、というのは悲しいことだ。

 自分の作り出した物語に、どうも自信が持てない、ということも。


 批判されたらどうしよう? とか、貶されたらどうしよう? とか、人は余計なことをいろいろ考える。

 心配はいらない。

 基本的に、書かれた物語はほとんど誰にも読まれない。

 見向きもされない。

 鼻もひっかけられない。


 無視されている期間、というのも、実は大切な期間だと思う。


 その間は、あらゆる実験を繰り返すときだと思う。

 どうせ読まれてないのだから、徹底的に好き勝手にやる。

 ますます人に理解されない世界に行ってしまうかもしれない。


 でも、それってすごいことなのではないか。


 わたしは創作というのは自分の自由を証明する行為だと思っている。


 とかいうとものすごーーーく大層だが、これは本気で思う。


 

 何の成約もなく、何のセオリーにも縛られず、自分を制限せず、こんなことを書いたら非難されるだろう、とか、バカにされるだろう、とか、つまらないことにとらわれることなく、思うがままに書き綴る。


 物語を書く人は、とりあえず物語を書くことに集中しているとき、自分を完全な自由のなかに置くことができる。

 

 これはゲームなんかをしているときよりもずっと楽しいだろう。


 だって、ゲームにだって最低限のルールというものがあるのだから。


 出来上がったものが、いかにも不可解で、いびつで、なにが言いたいのかさっぱりわからず、正味な話、自分自身でさえおもしろいのかどうかよくわからないものだったとする。


 あなたは、自分の作品を愛するべきだと思う。

 そんなんでもいちおうは書き上げた自分を、全肯定すべきだと思う。


 おれはこれだけのことをやったんだ、と、うぬぼれるべきだと思う。


 

 「自分本位すぎる」という評価は、他人が下すものであって、自分が自分に下すものではないと思う。

 


 なぜかといえば、物語を書く人は、というか何かを創りだす人は、心のどこかで「完全な自由」を求めていたはずだから。


 それが世間の評価に耐えうるか、というのは、ずっと先の心配だと思う。


 

 わたしは他人の書いた作品を読んだとき、そこに自分のまったく知らなかったものの見方や、考え方、描き方、語り口があったとき、とても喜びを感じる。


 それがよく出来ているかいないか、文章や表現や描写やプロットが優れているか、ということよりも、そこに「未知の世界」を発見するのが好きだ。


 

 これはもう有名な文豪の作品で単に自分がこの歳まで読んでなかった作品であっても、ネットで見かけた作品であっても、同じだ。



 書くことは、自分の自由を無制限に追求すること。

 読むことは、無制限な他人の自由を確認すること。


 これにつきる。


 だからわたしは、好き勝手に書く。


 

 もしわたしの作品を読んでいただいた人で、ひどく期待はずれだったり、退屈させられたり、あるいは怒りや嫌悪を感じたりした人もいるかもしれなない。


 ハハハ、お生憎様。

 詐欺にあった気分はどうだい?


 これがわたしの追求した自由の姿である。

 

 これでも喰らえ!

 


 そんなうぬぼれた態度で、わたしは物語を書いている。

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