第14話 ひらめいた時のこと
それは突然やってくる。
どこからやってきたのか?
異世界からか?
それとも外宇宙から?
案外、最近疲れているからかも。
ひょっとしたら、頭がおかしくなったのかも。
いいアイデアはないか? 小説になりそうなアイデアはないか?
どこかにないか? ねえな……ここにも、そこにもない……
ああもう、やっぱりどこにもねえや……
そうやって追い求めているときは、はっきりいってろくなアイデアが浮かばない。
みなさんも結構そんな感じなんじゃないか。
だいたい、プロットが思いついても、どんな奴がそのプロットの主人公に相応しいのか、思いつかないことが多い。
これはなかなかいいプロットだ、と思って書き始めても、どんな登場人物にその物語を語らせるのか(一人称小説であろうと、三人称小説であろうと)さっぱり思いつかない……
ということってないですか? みなさん。
そういう場合、プロットのための情景がまず浮かんでこない。
会話が出てこない。
人物描写がうまくいかない。
これはよくある話だと思う。
確か、中島らもの小説「今夜、すべてのバーで」の主人公が決定的にアル中になってしまった理由がこういう感じだったと思う。
主人公はノンフィクション系のライターで、30代まではそこそこいい線行っていた。あらゆる体当たり的な記事をものにし、業界でもそれなりに名前は売れ、ちっとも売れなかったけれどもルポ系の書籍も出版した。
で、そんな彼のところにはじめてフィクションを書いてみないか、と話が入ってくる。もちろん、主人公は中島らもの分身なので、彼はもともと作家志望だった。
一も二もなく飛びついて、とりあえずミステリー小説の企画を提出する。
そして調査し、資料を集め、これまでのノンフィクションの要領で、小説を書き始めようとする……けど、書けない。
ゼロから登場人物を生み出し、それに自然な口調で語らせ、自然にものを見させ、感じさせるということ、これが自分にはできない、と気づいてしまう。
で、彼はお酒に逃避して、アル中のドロ沼へ……。
ああいう死に方をしてしまう前に、中島らも氏はたくさんの名作フィクションを生み出したのだから、ほんものの中島らもはそれを乗り越えたのだと思う。
これを読んだ当時、わたしは小説なんか書いていなかったけど、この主人公の挫折の部分にはかなりグッときた。
たぶん、この主人公は、はじめてのフィクションをうまく書けていたのだと思う。
しかし、当人がまったくそれに満足できなかったのではないだろうか。
リアルじゃない、自然じゃない、なんかお話くさい……などなど。
それは、主人公がノンフィクションの世界でやってきたことに起因しているのかもしれない。リアルな世界のことを題材に文章を書いてきた彼は、自分の頭で創りだした虚構の世界が、あまりにも嘘くさく思えて仕方なかったのだろう、と思う。
アイデアがひらめくことはあるけれども、それがストーリーである場合、あまりそれに沿って物語を書き進めて、自分を満足させられるものを書けることは少ない。
ひらめくプロット、というのは、ゆうべ見たおもしろい夢に似ている。
これはおもしろい!
え? 夢?
……ってことは、これって俺のオリジナルってことだよな?
よし、これはそのまま小説になるぜ!
と思っても、冷静になって考えてみたら、それのいったいどこが面白いのかわからない。こういうことって、ないですか? みなさん。
あくまで個人的な話だけれど、ちょっと前にタイトルが先に思いついたときに、案外楽しく小説を書くことができる、と書いた。
これはなぜなのか、と考えてみた。
まあ、考えさせてくれ。
おれはこういうことを考えるのが好きなんだ。
しばらく考えたあとで、ようやくその理由がわかった。
「プロット」という縛りがないから、書くのが自由で楽しいのだ。
ヘンな話かもしれないけれども、(あくまでわたしの)悪い頭で考えたプロットなんて、ロクなものではない。
あざとくて、二番煎じで、嘘くさいものばかりだ。
プロットが書くことの自由を奪うなら、一旦捨ててしまったほうがいいと思う。
で、しばらく頭の片隅においておく。
プロットにふさわしいのはどんなタイトルなのか? とか
どんな登場人物がふさわしいのか? とか
その舞台はどんな感じなのか? とか
日々の食べていくための仕事をしながら、いろいろとアイデアを弄ぶ。
パソコンの前に向かっているときだけ、小説を書いているわけではない。
仕事をしながら、頭のなかで……たとえばつまらん打ち合わせやら会議やら移動時間などに……いろいろ考えてシミュレーションするのもまた、創作行為だと思う。
でまあ、ぴったりくる登場人物が浮かんでくれば、こっちのものだろう。
できれば、同時にタイトルも浮かんできたほうがいいけれど。
で、登場人物とくに主人公は、それなりにリアルでないといけない。
だからそいつは、自分であることが多い。
だからと言ってわたしがあらゆる場所で変態行為やら殺人などを繰り返している、というわけではなくて、自分ならその場に置かれたらどう考えるのか、ということを念頭に、物語を進めていくわけ。
自分でなくてもいい。
自分がよく知っている誰かでもいいと思う。
たとえば配偶者がいる人ならその人とか、仲のいい友達とか、仕事でつきあいのある人とか。
「この人だったらこういう状況に追い込まれたらどう感じるだろう? どう考えるだろう? どう行動するだろう?」
と、自分以外の人間で考えてみるのは、とても楽しい。
とくにわたしのようにエロが主体の小説を書く場合は。
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