第15話 他人を妄想に巻き込む
前章で書いたことはけっこう重要なので、補足しておきたい。
ほかの人がどう考えているのか知らないが、わたしは登場人物というのはできるだけリアルでないといけない、と考えている。
「リアル」じゃないのは仕方ないとしても、あくまで「ステロタイプ」であってはならないような気がする。
たとえば、警官ならこんなふうにダレた服着てムッツリしてるもんだろう、とか。
たとえば、少女なら親にも友達にも不満タラタラで退屈してるもんだろう、とか。
たとえば、会社の社長ならいい服着ていい車に乗ってやたらと傲慢だろう、とか。
たとえば、サイコパスなら知的なゴタクを並べてバッハ聴いてるだろう、とか。
いや、テレビの2時間ドラマならそれでいいかもしれない。
だいたい、主人公は善人でいつも正義感にあふれて余計なことに首を突っ込む。
だいたい、主人公の上司は小心な小役人で型破りな主人公に胃を痛めている。
だいたい、最初にブッ殺されるのはほぼ自業自得な社会的地位の高いゲス野郎。
だいたい、真犯人は悲しい過去があって同情できる理由で殺人を犯している。
話はそれるが、昔見ていた二時間ドラマに、俳優の前田吟が真犯人、というものがあった。前田の息子はとっくに死んでいるが、息子の嫁は身体の悪い前田吟を献身的に支えてくれる。エロ小説ならここで前田吟が嫁を押し倒すところだが、そこはサスペンスなので、嫁は過去の過ち(つまらないことだったので何だったのか忘れた)で悪者から脅されている。前田吟はその脅迫者のゲス野郎をブチ殺し、自殺に見せかけて偽装工作する。しかし、それを第三者に目撃され、それをネタに脅される。それで、前田はそいつもブチ殺す。さらに、その偽装工作がバレてまた脅されたので、三人目もブチ殺す……
あれはスゴかった。
もう、客観的には完全なシリアル・キラーと化した前田吟。
しかしドラマのラスト近くでは、刑事に説得されて自首する。
「お義父さんを待ってますから……」
という嫁も異常だと思った。ぜったい前田、死刑は免れない。
……どうでもいい話だった。
しかし、こういう物語というのも、登場人物をステロタイプに固めすぎたせいで、物語じたいがなにか無意識的に異様なものになる、という好例だと思う。
それはそれで面白いかもしれない(あんまりいくつも読みたくないが)。
ステロタイプな登場人物は、人をナエさせる。
というか、ステロタイプな登場人物を造形する作家は人をナメている。
“どうせこんなんでOKでしょ?”という投げやりさが行間に表れている。
いや、そうは言うけどよ、登場人物全員が素っ頓狂な奴だったら、話が進まねえじゃねえかよ! という声もあるかもしれない。
いや、話が進まないくらいがちょうどいい。
登場人物をステロタイプにしないと話が進まないなら、進めないほうがいい、というのがわたしのしょうもない信念だ。いやまじで。
小説に人物を登場させるとき、わたしは必ず、それを自分か、もしくは身近な他人に当てはめて造形する。
たとえば、自分が主人公のときもある。
自分が主人公ではない場合は、知り合いが主人公で、自分は脇役だ。
エロい物語を書く時だってそう。
というかむしろ、物語をエロくするために、そのようなセオリーに従う。
で、エロいことを書きまくる。
ああ、リアルにわたしの知り合いである人はまったく気の毒だ。
わたしが何かの物語を書いてるなんて、知らないほうが身のためだ。
もし、それらの人々……配偶者や友人や知人、親戚など……に自分の作品を読まれたら、わたしはその場で舌を噛んで死ぬだろう。
いや、死にはしないが必ず遁走する。
それくらい、わたしが書いていることは罪深い。
わたしの物語のなかで、わたしの周りにいる人々がしていること、させられていることを彼ら自身が知ったら、わたしはすべての人間関係を失うだろう。
しかし、これは登場人物をリアルに造形するためのリスクだ。
身近な人間、というのは、よくよく観察していると、ほんとうにみんな個性的だ。
安易な物語に出てくるようなステロタイプな人間など、どこにもいない。
いや、あくまでステロタイプな人間像を実生活のなかで演じようとしている人もいるにはいるが、そういう人間ほど、じっくり付き合ってみると恐ろしいまでの屈折を抱えていたりする。
そういう人ほど、わたしの妄想のなかで物語の登場人物に抜擢される、という望まない栄誉に授かることが多い。
ただ、こんなわたしにもただ一つだけ守っているルールがある。
周りの人々をモデルにし、自分を主人公にしたからといって、決してありのままの願望をそこで実現しようとはしない、ということだ。
●●さんと●●●●して●●●したうえ、野外で●●●●して、帰りの電車でも●●●したい!
これだけはしない。
なぜなら、それをすると小説ではなく、ただのズリネタになってしまうからだ。
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