第21話 長編小説を書くということ【2】
行きつくところも知らず、ダラダラと長い話を書き続ける。
つまりそれは「ライフワーク」というやつで、現世的な評価や利益を求めない、という態度だ。
創作の本来の喜びに立ち返るなら、それが最上で至高のアプローチだと思う。
先日、こちらに「アンドロイドやないけど電気羊の夢でも見るか」という長い、長い、うんざりするくらい長い小説を完結させたが、この作品は実に12年の時を経て完結した。
アホか、と思われるだろう。あんな小説に12年?
まあ途中、10年くらいサボっていたというのもあるが、それにしても時間がかかりすぎだ。べつに「この作品に俺の持てるすべてを注ぎ込むぜ!」と気合を入れていたわけでもなし。それらな10年間もサボる、なんてことはなかったはずだ。
とはいえ、自分の作品をどこかの文学賞やコンテストに応募したい、という狙いがあるなら、やはり作品はその応募期間中に書き上げないといけない。
でまあ、原稿用紙100枚程度の作品なら、それほど苦痛なく書ける人は「カクヨム」に集われている皆さんにも多いことだろう。
しかし、だいたい単行本一冊分に相当する分量を応募条件にしている文学賞となると、だいたい350枚とか400枚とかの分量を求められる。
文字数にすると14万文字~16万文字。
スタンリー・キューブリックの名作ホラー映画「シャイニング」で、頭のネジが緩んだのか、それとも悪霊に取り憑かれたのか、とにかくただならぬ様子のジャック・ニコルソンが、延々とタイプライターで執筆をしているシーンがある。
分厚い原稿の束が出来上がっているが……奥さんがその内容をみると、
『仕事ばかりで遊ばない。ジョニーは今に気が狂う。仕事ばかりで遊ばない。ジョニーは今に気が狂う。仕事ばかりで遊ばない。ジョニーは今に気が狂う。仕事ばかりで遊ばない。ジョニーは今に気が狂う。仕事ばかりで遊ばない。ジョニーは今に気が狂う。仕事ばかりで遊ばない。ジョニーは今に気が狂う。仕事ばかりで遊ばない。ジョニーは今に気が狂う……』
という同じ文言がビッシリとタイプされている……というショッキングなシーンが印象的だったが、ちなみに『仕事ばかりで遊ばない。ジョニーは今に気が狂う。』は23文字だ。
繰り返し打つだけにしても、原稿用紙意300枚=14万文字ならば、約6087回。
ちなみに原稿用紙400枚=16万文字ならば約6956回。
とりあえず、なにも考えず無意味に文字を並べるだけでもそれだけ手間がかかるということになる。手も疲れる。腱鞘炎になる。
いやそれは瑣末なことに過ぎない。
小説なのだから、考えて書かなければならない。
オリジナリティのあるものを、自分の頭で考えて、試行錯誤しながら、それだけの量の文章を書かなければならない。
いや、一旦書き出したらもう止まらなくなって、1週間くらい眠らずに一気に300枚くらい書けてしまう、というような人もいるかもしれない。
しかしそういう人はもう超人だと思う。
もしくはなにかを飲んでいるか、炙って吸っているか、静脈注射しているか。
いろんな書き手がいて、それぞれの書き方にはその人なりのスタイルというものがある。まあ法律に触れない範囲は問題ないだろう。いや、べつに法律に触れなくても他人に面倒をかけなければ、なにを飲もうが吸おうが射とうが勝手だと思う。
そして書いたものが面白ければそれに越したことはない。
たとえばウィリアム・バロウズみたいに。
ただ、多くの書き手は……300枚以上の小説を書くのに、それなりの時間を必要とする。時間だけではなく、精神力も必要だし、我慢強さも必要だし、ともすれば体力だって必要かもしれない。
しかし、なにより必要なのは……自分の書いているものに「飽きない」ことだ。
長編小説を書くのにあたって、「しっかりプロットを作ろう」「テーマを見失わないようにしよう」「読者を飽きさせない仕組みを」とか、まあそういうことはいろいろな創作論で出てくる話だ。
わたしの場合、そういうことを述べる資格などまるでないので、「いかに長編小説を書いている期間中、自分のモチベーションを保てるか」ということを中心に、これまでどおりに自己中心的に話をすすめていきたいと思う。
ところで本日、これまで『カクヨム』さまに公開していた25本中、15本が「猥褻な内容が含まれているという複数の利用者からの指摘」を受け、行為停止処分を受けた。わたしの作品を読んで、不快な思いをされた方には心からお詫びしたい。
と同時に、不快な思いをしながら最後まで読んでくださったことを真心から感謝したい。
ピース。
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