第10話 タイトルはビッグバンだ!(個人の感想です)

 さっきアイデアの話が出たが、これまでダラダラと小説を書いてきた経験からいえば、書き出す前に浮かぶアイデア、というものほどアテにならないものはない。


「これは……読者に一泡吹かせられるアイデアなんじゃないか?」

「こんな斬新なことを思いつくなんて、おれは天才なんじゃないか?」

「これほどまでにオリジナリティ溢れる話、これまでにあったか?」


 そう思って書き始める。

 しかし、アイデアは物語を書き始めるきっかけになるが、そのアイデアどおりの作品なんか、これまでにできた試しがない。


 これはあくまで、個人的な話だ。

 というか、この一連の文章はすべて、わたしの個人的な話だ。


 みなさんはアイデアを大切にしてほしいと思う。

 そして、すばらしい作品を書いてほしいと思う。


 

 わたしの場合……あくまでわたしの場合、頭で考えたアイデアというものは、ほとんど自分が満足できる作品をつくるにあたって、枷になるばかりであまりよい仕上がりに貢献してくれたことがない。

 もちろん、自分の目で自分の作品を自省的に評価して、の話だ。



 小説を書いていて、いちばんイラつく状況というのは、アイデアに基いてどんどん書き進めていっても、その小説のタイトルが思いつかないときのことだ。


 それなりにマシなものが書けているな、と思って書いていても、タイトルが思いつかないとき、わたしはなぜか、自分で自分の作品を書いている気がしない。


 それよりも、アイデアもなし、ストーリーのプランもなしで、突然頭にフッと浮かんだタイトルから、発想をふくらませる。

 こっちのほうがアプローチとして好きだ。


 たとえばわたしはかつて、「ヴァージン・ホミサイズ」という言葉を思いついた。


 ソフィア・コッポラの「ヴァージン・スーサイズ」を逆にしただけだが、わたしはこのタイトルをとても気に入り、その言葉から連想された物語を書いた。




 あるいは「童貞スーサイズ」という作品もある。

 これは長い、長い、長い作品でいまだに連載中だが、これもまた言うまでもないがソフィア・コッポラの映画からのイタダキだ。




 また「必殺にしきあなご突き」という作品も書いた。

 これなど、つげ義春の「必殺するめ固め」から着想を得た言葉で、いったい「にしきあなご突き」とは何なのか、書き始めるまでわからなかった。


 最近の作品では「女が女の部屋にノコノコやってきてタダで帰れると思ってやがったのかよ」という長いタイトルのものもある。これは、だいたい内容が想像つくタイトルだが、出来る限り、タイトルの先入観を覆すものを書こうと思って、精一杯がんばった。




 ここのところで、一番アクセス数が良い作品は「手籠め侍」という作品だ。


 やはりタイトルというのは重要だと思う。


 「よし、やるぞ!」という気分にさせてくれる。



 聞くところによると、映画監督のデイヴィッド・リンチは「ブルー・ベルベット」も「ロスト・ハイウェイ」も、タイトルから内容を考えたらしい。

 タイトルの語感と、そこから醸しだされる雰囲気、漠然としたイメージ。

 それを映像化すると、ああいう映画になるのだそうだ。


 まったくリンチのことを引き合いに出すなんて、厚かましいにもほどがある。


 が、タイトルは、人間の創造力におけるビッグバンみたいなものだ、とわたしは考えている。


 いいタイトルを思いついたとき、わたしは居てもたってもいられなくなる。


 たとえばテレビのニュースで聞いた言葉、ラジオから流れてきた音楽の歌詞の一部、あるいはちょっとした聞き間違いをしたとき、街を歩いていてうらぶれたスナックにつけられた名前を見たとき。


 こういう瞬間、いったいそれが何を意味するのかわからないままに、これに相応しい物語とは何だろう、と考えをめぐらす。


 はっきり言って、わたしはふつうの読書やら映画などから、物語の着想を得ることはあまりない。


 タイトル。


 なんだかよくわからないが、抗いがたい魅力を持つ、ひとつの言葉。

 それにあう物語を考えるのが、いちばん楽しいのだ。



 

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